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ピグマリオン効果、あるいは自己暗示の効能について

 

「可愛いって相手に言い続けると本当に可愛くなってくらしいぜ?」

「はぁ」

 

とあるアパートの一室。大学生の男二人でルームシェアする部屋のリビングにて、

ふと思い出した様に、武道は隣に座り雑誌を読んでいた直人に話しかけた。

 

「バイト先のADがどっかで見たネタでさ、彼女とかに“可愛い”って言い続けると本当に可愛くなるっての実践したらマジで可愛くなってきたって自慢しててさ。直人、聞いた事ある?」

「はい?」

 

声を掛けられ、直人は読んでいた雑誌から目を離す。そうして、武道から掛けられた問いに考えを巡らせた。

 

「……ピグマリオン効果ですかね」

「ピグマリオン?」

「えぇ、教育心理学の話で、子どもに教育をする際に、“お前たちは選ばれた優秀な生徒だ”と教師が期待したクラスは、そうでないクラスよりも良い結果が出るというものですね」

「選ばれた優秀な生徒だからじゃなくて?」

「はい。そもそも、その文言も教師に伝えた実験者の嘘で、生徒たちは特に選別などされていない完全にランダムで選ばれた子どもです」

「はーん、なるほど。教師の方から騙して、ホントに期待させてるのか」

「まぁ、そうですね。騙してって言い方は何だかいやらしいですが」

 

武道の率直過ぎる物言いに少し呆れた顔をしつつ、直人は説明を続けた。

 

「本当に期待をさせる必要のある実験ですからね。期待をされたらされた側もソレに応えてくれるのだという結果が有意にでたというものです」

「まぁ本気で期待したから、相手も期待に応えるって事か。じゃあADの話はちょっとズレてんな」

「いえ、一概にそうとも言えません。可愛いと言い続けると可愛くなる、という言説自体に期待をしているかもしれないので。彼女さんが可愛くなる期待はしてるんじゃないですか?」

「うわ、難しい。複雑な事してんな」

 

顔を顰めて、頭の中でその複雑な関係性を整理する武道に直人はクスクスと笑う。

 

「じゃあ、実際やってみますか?」

「は?」

「毎日、可愛いって言い続けてあげましょうか。恋人に可愛いって言い続けると本当に可愛くなるか実験してみます?」

 

 

 

「せっかく、僕ら恋人なんですし」

 

 

・・・

 

 

元カノを死の運命から守る時間の旅の果てに、武道が出した答えは“彼女と出逢わない事”だった。彼女の死の根幹には自分が関わっていたと知った時、頭に過り、それでも共にありたいと願ったその先で、彼女以外の全ても諦めきれないと気付いてしまった。

彼女の厄災となる男を篭絡し、自身の相棒とした。未来の闇の根幹となる男も、救った。

 

彼女の危険を退け続け、しかし、彼女を迎えに行く資格は自分に感じられなかった。

 

全てを捨てて彼女だけを愛せない男にその資格があるのか、と。

まだ、彼女と出逢わない未来がある世界で、武道は彼女とは相見えない道を選んだ。

弱冠15の時の話である。

 

「何故、姉さんに会わないんですか」

 

しかし、そんな武道の目の前に現れたのはかつての相棒であり彼女の弟、直人だった。

 

責める様なその瞳を見た瞬間に、武道は弟、直人が前の世界の記憶を引き継いでいると気付いた。

適当な事を言って誤魔化せる相手ではないと早々に腹をくくり、自身の心情と決意を語れば、直人は大きく溜息を吐いた。

 

「分かりました。姉と貴方の事はもう口を出しません。代わりに、僕も勝手にしますから」

「勝手に?」

「はい、姉と出逢わない道を選んだのならもういいです。それなら僕も姉の恋人に横恋慕する弟ではなくなるって事ですから」

「は?」

「僕が貴方を愛してしまった事に貴方、気付かなかったでしょう?」

 

その幼い風貌から出る、酸いも甘いも嚙み分けた様な言葉がどうにもミスマッチだった。

武道はその少年を奇妙だと思い、しかし、確かにソレが相棒であると言う確信にもなる。その相棒が自分に恋慕していたなど、到底信じられない事であったが。

 

「いいんです。気付かせるつもりもありませんでしたし」

「でも……」

「気に病むのでしたら今からでも僕と付き合ってくださいよ」

 

ヘラリと笑う直人に武道は答えに窮する。

彼女以外と、しかも、彼女の弟と付き合う覚悟はまだ武道には無かった。

 

「普通の恋人で良いんです。気軽に付き合って、無理そうなら別れる。十代の恋なんて普通はそんなもんなんですから」

「まぁ、そうだろうけど……」

「知らない、話をしたこともない女性を守るストーカーよりは、恋人の姉を守っている事にした方がマシでしょう? お試しで軽い気持ちで付き合ってみません?」

 

ぐうの音も出なかった。

 

・・・

 

そうして紆余曲折の末に、武道は直人と付き合う事になった。

当時1415だった直人と武道は高校、大学と進学していき、いつの間にか直人の身長は武道を超えていた。

結局、彼女と会う事はなく、直人の恋人として家族に紹介される予定も無かった。流石に同性の恋人を紹介などしたら勘当されてしまうかもしれない。

特に武道は全国統一した暴走族の総長代理である。

直人の父の正人は警察だ。武道の素性は知っている。実際、大学進学に際してルームシャアしたいと話をした時にはかなり苦言を呈された。しかし、直人と先に相談した言葉で説得に成功した。

 

元彼女、日向とは結局一度も会ってはいない。

日向から見た武道は弟の友達だ。恋愛対象でもなければ友人ですらない。

かつての恋人だった記憶を持つ武道からすれば寂しい思いもあったが、日向を守りたい気持ちが武道にはあり、直人から日向の安否をいつでも聞けるのは気が休まる所でもあった。

 

そうして、二人で勉学と趣味に励む日々の中で、そんな関係が心地よくなり、直人との恋人関係も武道の中でゆっくりと消化されていった。

言葉を交わす事も、手を繋ぐ事も、肌を合わせる事も、それは直人とするのが当たり前になっていった。

 

そうして、「恋人にかわいいと言い続けると本当に可愛くなるという言説は正しいのか」なんて戯れに興じる程度には、二人は恋人と成った。

 

・・・

 

翌朝。

 

「おはよー」

「おはようございます。今日も可愛いですね」

「お、おぉう」

 

さっそく昨日の戯言を実践する直人に武道は思わず言葉を失う。

 

「君は照れてもかわいいですね」

「おぉう、ありがとよ」

「顔を洗ってきたらもっと可愛いですよ」

「へいへい」

 

照れた様子も無くコーヒーを飲む直人を背にして武道は洗面台へと向かう。

自分だけが照れてしまうのが悔しくて顔を顰めてリビングを出てしまったけれど、確かにコレは悪くない、と武道は思う。ナンなら顔を洗った後に普段ならそこまで気にしない髭を剃ったり眉を整えたりなどしてしまった。

普段はもう少しボサボサしてきてから手入れしていたが、恋人に“可愛い”と言われてしまうとそうあろうとしてしまうのはまぁ確かにあるのだろうと武道も思う。

 

ピグなんちゃら効果かは分からないが、少なくとも、自分が直人に愛されているという事実に胡坐をかくのはもう少し先になってから、“可愛い攻撃”に慣れてからだろう。

普段はあまり褒めてはくれない直人が、からかい交じりでも自分を可愛いと言うのだからソレに応えなくてどうする、という思いも武道にはあった。

 

どこかに行く予定も無いのに少し念入りに髪をセットして、リビングに戻れば直人は武道の分も朝食を用意していた。

 

「どうぞ」

「ありがと」

「いえ、可愛い貴方のためですから」

 

ミルクと砂糖がたっぷりと入れられたコーヒーが武道のためにいれられた事は確かで、口先だけで可愛いと褒めそやすだけでない直人の行動の変化も武道には少し照れ臭いものだった。

直人の告白を受け入れた日から、特に彼からの愛を疑ったりはしていなかったが、しかし、二人の間のやりとりが大きく変わるという程の事は無かった。相棒として、友人として、共にあった二人の関係性に新たに恋人というものが加わった形だ。

常に好きだ愛していると伝える様なタイプでは二人は無かった。

今だって少しからかい交じりだ。ソレが照れ隠しなのは何となく分かっている。

そうでないのならば言葉にした瞬間に、行動が変わる程の事では無かったハズだ。

 

二人でゆっくりと朝食をとって、今日の予定を確認すれば、互いにオフで、切羽詰まった課題も無かった。

 

「せっかくですしゆっくりしましょう。買い物も特になかったですね」

「おう。昨日の帰りにスーパーも寄っちまったし、急ぎの物はねぇな」

 

運命を変える使命の無い二人は案外趣味人で、衣食にというよりも趣味の本や映像媒体を蒐集することにお金を掛けるタイプだった。二人ともオフだからと外食やデートに出かけるより、ただ同じ部屋で別々の事をすることも多い。

それでも一緒にいるのは互いが互いのストッパーになれる事と、単純に経済的理由からだった。そして何より、ただ一緒にいたいと互いに思うからだと言うのが一番大きいだろう。そうでもしなければ、互いに趣味に生きてしまう。

共に生きたい気持ちはあれど、好きな物も人も多すぎた。金も時間も足りない中で、全てを得ようとするのならば一緒に住んでしまうのが一番だった。

 

それぞれの趣味に一区切りついた方が食事の準備を始め、調理が終われば相手を呼ぶ。

相手の邪魔をしないかどうかは状況を見てであるが、ほとんどの場合、容赦なく共に食事を摂らせた。趣味の時間を邪魔しないのではなく、許される範囲で邪魔をすることを許し合う仲だった。

 

今日、先に区切りがついたのは武道で、直人がそれなりに見た目や栄養に気を遣うのに対して、武道の料理は炭水化物メインの男飯だ。そこにカットした野菜をぶち込むだけで手軽に栄養も摂れる。

武道は直人の作る恰好を付けたオシャレ料理が嫌いでは無かったし、直人も武道の男飯に文句を言いつつも好きだった。

 

「ナオトー、昼飯出来たー」

「あぁ、はい……」

 

返事はしつつも名残惜しそうに本から目を離さない直人を無視して、武道は昼食の準備を続ける。多少でも区切りがつけば卓につくだろう。

冷蔵庫に常備している麦茶を出してコップに注ぎ、食器に盛り付けて、箸を用意しているうちにダラダラと直人がやってくる。

 

「ありがとうございます」

「んー」

 

手を合わせて食事の挨拶をすれば、お互いによく分からない趣味の話をドッヂボールの様にする。完全に理解しきらない話の断片が互いの記憶に降り積もる。

武道は直人の話をフックにして脚本を考えてみたり、映画の解釈を深めてみたりする。そして直人は武道の話から研究内容の発表手段、メディアの活用方法などを探ってみたりする。

 

正反対の様で、奇妙な噛み合いを二人はこの生活の中で感じていた。

 

特に直人は、自分の趣味に生きるか、以前と同じように家族を守れる職に就くかも悩み中である。モラトリアムの真っただ中で、父も母も直人の将来を心配こそすれ、制限はしない様だった。

もしも趣味に生きる選択をすることができれば、自分と武道は実は似ているのかもしれないとすら思う。大雑把な切り方をされた野菜が雑に入った味の濃い焼きそばも、水出しパックの麦茶も好きか嫌いかで言えば直人は好きだった。

 

「ごちそうさまでした。おいしかったです」

「おう、良かった」

「可愛くて料理も上手いなんて、僕は良いお嫁さんをもらいましたね」

「思い出した様に言わんくていいから」

 

実際、忘れかけていた実験を思い出し“可愛い”を口にすれば武道は照れ隠しの様に顔を顰めた。そして逃げる様に机へと向かってしまう。

フライパンと食器は直人が洗い、武道は趣味のパズルの延長線で最近ハマりだしたペーパークラフトの制作を始めていた。完成したら短いストップモーションアニメを作るのだと言っていた。

そういえば一年くらい前にも可動式フィギュアを躍らせる動画を作っていたな、と直人は思い出す。

その制作にどれほど時間が掛かるのかは分からないが、もしかしたら夜は自分が作った方が良いかもしれないと考えながら、直人もまた自分の時間に戻るのだった。

 

 

そんな何気ない一日も夜を迎え、案の定ペーパークラフトに夢中な武道をそっとしたまま直人は夕飯を用意した。自分と同じように、呼べば武道も区切りの良い所で切り上げて食卓につく。

あまり凝ったものを作るワケではないけれど、武道の作る料理とはまた違う直人の料理を武道は喜んで食べてくれる。多少子ども舌な所がある事を考慮さえすれば武道はほとんど好き嫌いをしなかった。

恐らく、最初の未来の汚い部屋でカビたパンを貪っていた頃と比べてればまともな生活なのだと思えるせいだろうと直人は睨んでいた。

 

夕飯を直人が作れば、風呂掃除は武道が行い、湯舟にお湯を貯める。

直人に先に風呂に入らせるのは夜のお誘いの合図だった。

 

特にやるべき事も無く、恋人からの誘いに乗り入浴を終え、ベッドで待つ。

そこそこ待たされるこの時間が直人は嫌いでは無かった。自分のために武道が準備をしてくれているのだと思うと堪らない気持ちになる。

欲を言えばその準備も自分がしてやりたいとか、眺めてみたいとかという思いはあったが武道は恥ずかしがって了承しなかった。前の世界では魂の抜けた武道の身体を直人が世話をしていたと言うのにソレとこれとは話が違うらしい。

恐らく武道が思う以上に恥ずかしいであろう処理をしていた記憶があるが、武道は覚えていないのだから仕方がない。そのうち誕生日プレゼントなどにねだってみようとは思っている。

 

そんな事を妄想しながら待てば暫くして武道が寝室へと戻る。

 

「お待たせー」

「えぇ」

 

情事の準備の待ち時間はいつも待ち遠しく思っている。

素直に肯定すればまた武道は微妙な顔をした。今朝からよくしている照れ隠しの表情だ。

 

「何だよ、そんなにオレとヤリたかったのかよ」

「えぇ、かわいい貴方に早く触れたいですから」

「またお前は……」

 

ベッドに腰かける武道に近付き、頬を撫でながら口説けばいつもとは違う花の様な匂いがした。これは風呂で何か仕込んできたか、と考えながらキスをすればいつもよりも感触がしっとりと柔らかかった。

コレは恐らく普段サボっているボディクリームで保湿をしてきたのだろうと直人も理解した。

 

ピグマリオンの効果か、今日の武道はやけに可愛らしい行動が目立つ。

 

武道自身も同じ感触を感じているのだろう。大人しく、気持ち良さそうに直人の腕の中へとおさまった。

瞼を下ろし、ちゅむちゅむと唇の感触をいつもよりも楽しんでいる。性急に舌を絡めるのではなく、表面の触れ合いが気持ち良いのだとうっとりとしていた。

 

「んぅ……」

 

パジャマの上から腕を回し、背中を撫でれば気持ち良さそうに甘えた声が漏れる。

しかし元々耐え性が無いタイプなせいか、武道は直人のパジャマのボタンをはずそうと指を伸ばした。その指を好きにさせ、直人もまた武道に触れる。直接触るのも好きだが、布に肌が擦れる感触も武道は好いていた。

 

互いに身体を弄り合いながら、もういいかと舌で唇をノックすれば武道は素直に(あわい)を開いた。ぬるりと舌を差し込めば、歓迎する様に絡みつかれ、愛撫する様に吸い付かれる。

快楽を貪る間は照れも無く、かなり素直になるのが男らしくて思わず笑ってしまいそうなるが、本当に笑ってしまえばせっかくの良い機嫌が斜めになってしまうのでこっそりと耐える。

 

舌を絡め合って、唾液を啜り、満足したのかゆっくりと唇を離せば艶やかに銀糸が渡った。プハリと満足そうに息を吐く様は可愛らしくも艶めかしい。

 

「かわいいです」

「ん……」

 

抱き締めて額にキスをすれば武道は直人に身を任せる。

キスの間にボタンは全て外された様で、いつの間にかはだけられた胸元にイタズラをされる。可愛いと言うべきか小憎らしいと言うべきかと悩みつつ、恋人がセックスに積極的なのは良い事だと思う事にした。

実際、小生意気なのが可愛いのだという感覚もある。ひっくり返して滅茶苦茶にしてやろうかと考えていれば武道は焦れたのか、自分から少しだけ直人と距離をとり、ツプリツプリとボタンをはずし始めた。

 

突然始まったストリップに本当に今日はサービスが良いな、と感心しつつ、ジッとその様を見つめる。

 

武道は外に出る事が多いため、肌はよく日に焼けている。しかし、地はそう黒くも無いせいで日に晒した箇所と隠された箇所でコントラストがハッキリとしていた。

その比較的白い部分が、直人の目に晒され、触れられる事に慣れた性感帯もまた剥き出しになる。

 

「綺麗です」

「はは、かわいいはもう良いのか?」

「えぇ、かわいいのも綺麗なのも事実ですから。そう思った時に言いますよ」

「へいへい」

 

唇を尖らせて、ばさりと武道は上着をベッドの下へと落とした。そこは豪快なのがまた武道らしくて直人はこらえきれずに笑ってしまう。

 

「何だよ」

「いや、かわいいなって思って」

「ナオトのツボ分かんねー」

 

きっと本人の中では妖艶なつもりなのであろう武道の詰めの甘さが愛しい。

機嫌を取る様に顔にキスをすれば、キスは好きなのか大人しくなるのも可愛かった。武道が武道であるのがもう可愛いのだなぁ、と直人は感慨深く思う。

せっかくかわいいサービスをしてくれたのだから、と直人は武道をゆっくりとベッドに押し倒し、首筋から丁寧に愛撫をすることにした。

 

「ん、かわいい、です」

「そ、ぅ……かよ…」

 

ちゅむちゅむと首筋にキスをすると武道はくすぐったそうに、しかし悩まし気に瞼を伏せる。気持ちいいのだと隠せない素直な反応が可愛くて、直人は思わず少し強めに吸い付いてしまう。

一瞬だけしまったと思ったが、今日誘いをかけたという事は明日はバイトではないハズだし、1日あれば武道の回復力なら鬱血痕も消えてしまうだろうと直人は気にしない事にした。

 

「あ……っ」

「かわいい」

 

首筋を通り過ぎ、胸元へと唇を寄せる。

愛され慣れた突起は既にピンと勃って、健気に愛撫を待ち望んでいた。

 

「あっ、んぅ……っ」

 

希望通りに突起を口に含めば武道はビクリと腰を震わせた。反対側の突起も指で愛撫し、コリコリと刺激すれば武道は甘く悲鳴を上げる。

 

「あぁっ」

「はわいいれすよ」

「んっ、そこでっ、しゃべんぁっ…なっ……あぁあんっ」

 

咥えながらもごもごと喋った言葉も内容が内容のため、何を言ったのか簡単に分かるらしい。武道の抗議への返事の様に強く粒に吸い付き、反対側もむにゅりと潰せば更に嬌声が大きくなり、ビクビクと腰が震える。

乳首だけで甘くイッてしまったのだと分かるその様子が愛しくて、直人は今度は労わる様に優しく舐める。

浅く息をする武道が少し落ち着いてから、身体を離し、下着ごとズボンを脱がせば既に一度吐精したにも関わらず、陰茎は甘く勃起していた。

 

「かわいい」

「ソレはオレのジュニアに対する侮辱か?」

「まさか。自分の手でイッた恋人の性器が可愛くないハズがないでしょう?」

「分かる様な分からんような……」

 

いやでも男のちんこだぞ、と首を捻る武道のマイペースさに笑いながら、直人も服を床に脱ぎ捨てた。明日の朝、床に落ちた服で武道がこけない様にしてやらないとな、と脳裏にメモをして、向き直る。既に硬くなった自身のモノと、半勃ちの武道のモノをピトリと合わせて、一緒に扱く。

直接的な刺激に訝し気な顔をしていた武道もすぐにまた情事の空気に戻った様だ。直人の手に合わせて腰を振り、一緒に先ほどまで貪られていた胸も艶めかしく揺れる。

 

素直に快楽を貪る恋人の姿に眼福だな、と思いながらもう一度武道を射精させておこうかと手を速める。

以前よりも少しインドア気味の生活をしている今の直人は、若干、武道よりも体力がない。そのうち筋トレをしたり持久力を付けようと思いつつも、インドア趣味の方が楽しいせいで必要最低限の外出しか結局していなかった。

 

元々自堕落な武道は快楽にも弱く、直人の愛撫で簡単に嬌声を上げ、すぐに昇りつめてしまう。それでも一度の性行為で何度も絶頂をするのだから地金の体力が違うのだろう。

 

あんあんと可愛く喘ぐ武道を追い詰める様に、しかし自分がイカない程度に、扱けば、直人の思惑通りに武道は先に吐精した。恐らく、武道も先に何度もイカされることに慣れていてわざと快楽を貪っているのだろうと直人も分かっている。

過去何度も為されなかった、筋トレしよう、の誓いと共に直人は自身の指についた武道の精液と自分の先走りを絡ませ、陰茎の更に奥、武道の秘所へと指を伸ばした。

 

「あ、ん……」

「痛くないですか?」

「ん、大丈夫」

 

既に武道自身の手によって解された孔はくぷくぷと刺激を望んでいて、直人の指が触れると吸い付く様に蠢いた。

そこにツプリと指を挿し込めば、きゅんきゅんとしゃぶり、快感を強請る。

 

「あっ、ナオ、ト。大丈夫だから……んっ」

「そうですね、タケミチ君が自分で準備してくれましたからね。もう2本入りそうだ……」

3本は、ぁっ……イケ、るからぁ…っ」

 

早々に増やした指2本で浅い位置の前立腺をコロコロと可愛がれば武道は堪らないと言った風に嬌声を上げる。腰と一緒に勃起したモノも揺れて、可愛らしかった。

 

「即っ…ハメだって、出来る様に、んっ…して、んだよッ……ぁっ」

「ソレはソレで勿体無いと言いますか」

「何だ、それ……っ」

「僕の手で乱れるタケミチ君は可愛いですから」

「んぁあっ」

 

きゅう、と前立腺を挟み込む様に虐めれば武道は腰から喉まで仰け反らせる。

流石に2度、絶頂を迎えているせいか射精には至らなかったが、かなり追い詰められている様だ。

 

「も、挿れてぇ……っ」

 

泣き言を言う様に甘え、武道は挿入を強請る。焦らされるのは嫌いでは無かったが、今は一つになりたい気分の様だった。

 

「分かりました」

 

既に解され、中に仕込まれたローションも十分だと判断した直人は硬く張り詰めた陰茎を武道の秘所へと宛がった。それだけで期待した様にちゅう、と吸い付くせいで理性が崩れそうになる。

たとえ乱暴にしても受け入れられるだろうと言う確信もあったが、そうしたくはないのだと直人は己を律してゆっくりと挿入していく。

 

直人の陰茎に大歓迎でしゃぶりつく襞がきゅんきゅんと射精を促すのを何とか我慢する。

そして、焦らす様にじっくりと武道のナカを奥深くまで征服する。

 

「ふ、ぅ……」

「ん、全部入った……?」

「えぇ、入りましたよ」

「へへ、ナオトの……」

「ちょっと……っ!」

「あんっ」

 

嬉しそうに腹を摩る武道の姿に思わず暴発しそうになるのを何とか止めて、直人は抗議する様に少しだけ奥を突く。

 

「あんまり可愛い事しないでください」

「んっ、ひでぇヤツ」

 

そんな直人に武道はニヤッと笑う。

 

「いっぱい出せば良いのに」

「ホントにいい加減にしてくださいね、乱暴はしたくないんです」

「ふぅん?」

 

直人の言葉を武道は面白そうに聞いて、するりと手を伸ばす。

直人はされるがままに、抱き着く様に引き倒された。そんな武道の奔放な行動もまた可愛いと思い、好きにさせる。

理性の糸が切れたらその時はその時だ、と。

 

そして武道はそんな直人に揺さぶりをかける様に耳元で囁いた。

 

「オレ、激しいのも好きだけどな」

「……ッ」

 

プチリと無残に引きちぎられた理性に、直人は武道に敗北したと悟る。

 

「あぁっ」

 

好きにさせていた足を掴んで、ぐっと持ち上げる。それと同時に少し腰を引いて、前立腺をこそぐ様に奥を突けば武道は嬉しそうに嬌声を上げた。

 

「分かりましたよ。今日は激しいのが良いんですね」

「あっ、あぁっ」

「可愛い君のお願いですからね。いいですよ」

「ナオッ…ひぁっあああんっ」

「そうやって可愛く鳴いていてください」

 

ゴリゴリとナカをえぐり、刺激してやる。

おそらく、今日の武道はそういう気分なのだろう。これも一つの甘やかしの方法になるのだろうと思い、直人は武道の思惑に乗る事にした。

 

「かわいいですよ、タケミチくん」

 

そうして一晩中、かわいいかわいいと言い続け、いつの間にか夜は更けていった。

 

 

・・・

 

翌朝。

 

「実は昨日の朝の時点で気付いてはいたんですが」

「ん?」

「コレ、ピグマリオン効果以前に自分に暗示かけてますね。“君がかわいい”って」

「あ~」

 

 

・・・

 

・この世界の直人は一応、警察を目指している。

 

・正人には「不良たちに悪い事をさせないためには同じ場所に立つのが早いと思った」「少なくとも今の東卍傘下には悪い事はさせない様に監視してるし、そのための部隊もある」「以前は父親に反発していた直人も、武道の影響で治安維持に興味を持った」と説明している。