· 

ミンチになっても死ねないので拷問等にはご注意ください


 花垣武道は吸血鬼である。
 吸血鬼とは読んで字の如く「血を吸う怪物」の総称だ。様々な国の民話や創作物に登場し、蘇った死者が生者を恐怖に陥れる。しかし、その知名度から様々な創作物に描かれ、色々な吸血鬼っぽい怪物の特徴をまとめられた結果弱点が多い事でも有名である。日光に弱い、銀に弱い、ニンニクがダメ、流水もダメ、招かれないと家に入れない等々。
 そんな創作物の影響で何かと面白いイメージも多い吸血鬼であるが、その真実はあまり公になっていないものが多い。吸血鬼がこの世に確かに存在し、ヒトと共に国という共同体の一員、国民として生活している今でも吸血鬼の存在は都市伝説扱いであった。
 
 弱点以外に有名なのはその能力の数々である。血を吸う、不老不死、煙になって忍び込む、コウモリに化ける、魔術を使える等々。先ほどの弱点と矛盾する点もあるが、どれも正しいかどうかも分からない眉唾物の噂話であるため仕方が無い。
 そしてその能力の中に、その血を適合する他者に飲ませれば眷属にすることもできるというものがあった。

 何故いまそのような説明をしたのかと言えば、吸血鬼である武道の目の前に今にも死にそうな人間がいるからだった。
 場地圭介。
 東京卍會壱番隊隊長という地位をを先日ブン投げて、友人である羽宮一虎の所属する芭流覇羅へと移籍した男だ。その羽宮と総長の佐野と3人で過去になにやら確執があり、佐野を殺したい羽宮、羽宮を助けたい場地、場地を取り戻したい佐野という三角関係によってこの抗争が引き起こされたのだと武道は認識している。
 吸血鬼でありながらも14歳の少年である武道はひょんな事から東京卍會へと加入し、弐番隊の平隊員をしていた。総長の佐野から場地を連れ戻せと命令されたり、羽宮と同じ学校だからと芭流覇羅のメッセンジャーにされたりなどしているうちに抗争が始まり、てんやわんやしつつ拳を振るっていたのがさっきまで。
 武道が事態を何も把握していない中、場地が羽宮に刺された。そしてソレにキレた佐野が羽宮を殴り殺そうとし、羽宮を庇う様に場地が自死を選ぶ。
 何が起きているのか頭の弱い不良だった武道には分からないが、とりあえず場地という男は死んではいけないらしいという事だけは把握した。
 
「タケミっち!?」

 場地を抱えていた松野が声を上げた。その視線の先には自分の腕を雑に斬り付ける武道がいた。そして切り口から溢れる血を気にもせず、松野の抱える場地に近付いた。

「テメェ何して……ッ」
「場地さん。はい、アーン」
「はぁっ⁉」

 ビチャビチャと雑な音を立てて場地の顔に武道の血が降り注ぐ。死者への冒涜だと松野が怒声を上げ、その声に反応して佐野と羽宮の動きが止まった。武道の暴挙に先にコイツを殺すかと佐野が駆け出そうとした時、ビクリと場地の身体が跳ねた。

「ぐッ、あ゛ァ、ア゛アア゛ァ゛アアアァア゛……ッ‼」
「場地さんッ⁉」

 その苦し気な声にその場にいた全員が怖気を感じる。完全に死んだと思っていた男が悲鳴を上げてのたうち回っているのだ。悪魔の儀式か何かにしか見えない。
 それは当たらずとも遠からずと言った所で、吸血鬼の血を飲まされたことでヒトから吸血鬼の眷属へと細胞から変化している。ソレは激痛を伴い、刺されても自害しても嗚咽を漏らす事もしなかった場地を絶叫させるほどだった。実際、血に適合できなかった場合は無駄に苦しめて死なせるだけである。
 しかし、武道は何となくこの人なら大丈夫だろうと思っていた。この痛みは過去自分がヒトから吸血鬼へと転化した時と同じ痛みであり、自分に耐えられたのだからイケるイケると甘く見ている部分もある。
 その壮絶な苦しみ様に周囲の不良達が何もできずに唖然としているうちに、転化が終わる。腹から流れていた血は止まり、身体を蝕んでいた痛みがゆっくりと消えていった。
 ごぽりと胃に溜まっていた血を吐き出し暫くむせる。

「あ、終わりましたね」
「……」

 自分の予想通りに転化を耐え切った場地に武道は笑顔を向けた。

「いってぇんだよ!」
「あいた!!」

 ベシリと頭をはたかれて武道は半泣きになる。

「死ぬよりはマシじゃないですかー!」
「死んだ方がマシなレベルの痛みだったわ!!」
「もー! わがまま‼」

 その気の抜ける様な会話と事態について行けずに周囲の不良は顔を見合わせた。

「とりあえず救急車呼ぶ?」
「いるのか? コレ」
 
卍卍卍
 
 とりあえず呼ぶかと呼ばれた救急車で運ばれる場地と事情を説明するための付き添いの武道、自首するための羽宮が廃車場に残り、抗争は東卍の勝利という形で終わった。
 救急隊員には切腹したのちに救急救命として吸血鬼の眷属化したと既に伝えられており、万が一にも狂暴化などしていたら射殺も許可されていると聞かされ武道は「大袈裟だなぁ」と笑ったが羽宮と場地は心底恐ろしく思っていたらしい。

 そうして病院へ連れていかれ、場地は検査入院の運びとなり、羽宮は警察へと連れていかれた。
 場地の母親が呼び出され、医師を交えて本人の状態、これからの流れを説明される。武道の母親はと聞かれ、いないと答えると微妙な空気になってしまったが本人は気にせずにヘラヘラと笑っていた。
 吸血鬼はヒトではないので人権がないが、問題なく人間社会の中で生きていけると武道は宣う。自身が吸血鬼にされて数年経つが、今回の事が無ければバレる様なこともなかったし、義務教育だってヒトと同じく受けられている。諸事情合って両親はいないが新規の吸血鬼も吸血鬼連盟が保護してくれるためそう困る事は無いと説明すれば場地の母親は少し安心した様な顔をした。
 武道の保護者代わりの吸血鬼連盟の人がより詳しい説明を場地の母にしている間に本人の検査が進んでいく。その付き添いをしながら、自分も最初にこの検査受けたなぁと武道はのんびりとその様子を見ていた。

 検査の間に場地は武道をジッと観察する。数カ月前に佐野に連れてこられたこの少年が吸血鬼だったなんて全く気付かなかった。敵なのか、味方なのか。悪い奴なのか、そうではないのか。
 悪い奴、ではないのだろうと場地は思う。ちょっとアホな頭の悪い奴な気はするが自分も留年しているしあまり人の事は言えないとも思う。
 吸血鬼と言えば世間一般で言えば鼻つまみ者だ。欲望のままに人の生き血を啜る害獣だと偏見を持つ者もまだ多くいる。個体差は色々であるが単純に力が強い者や治癒力の高い者、戦力として吸血鬼を反社会的勢力に組み込みたいと考えている人間だっている。
 そのことをこの目の前のアホ面の少年は分かっているのだろうかと場地は苦々しく思う。分かっていたのなら何故、あの人目の多い場で自分を転化させたのか。

「……」

 分かり切った事だった。
 自分のためだ。
 あの場で自分が死にかけていたから危険を冒したのだ。

「お前、何で俺を助けた」
「はい?」

 急に声を掛けられて、武道は少し驚きながら場地を見上げた。
 歳は一つしか違わないのに、とその幼い顔を眺めて思う。まろい頬も大きな目も、恐らく数年前に不老になったためなのだろうと予想できた。改造された制服に金髪リーゼントで誤魔化しているがこの少年はもうあと数年もしないうちに実年齢に相応しい社会から弾き飛ばされるのだろう。

「俺を眷属にしてお前に何の得があるんだよ」
「うーん、何をさせたいとかはまだ考えてないけど、とりあえずマイキーくんと仲直りして羽宮くんとの仲を取り持ってほしいかなぁ」
「だから、それがお前の何の特になるんだよ」

 へにゃりと笑う顔からは意図が読み取れず、場地は顔を顰めた。最近加入してきた稀咲の方がまだ分かりやすい。自分が成り上がるために林田を陥れ、佐野に甘言を吐き、半間と繋がり羽宮を唆した。唾棄すべき相手だと簡単に分かる。
 しかし、目の間の少年はそうではない。その行動の裏側で何を望んでいるのか分からない。複雑な行動原理があるのか、本当に何も考えていないただの阿呆なのか。

「うーん、何の得って言われると難しいけれど、総長のマイキーくんが場地くんを諦めたくないって結論を出したんだから下っ端の俺は基本的にはそれに追従するよ? 俺を助けれくれた人だし、悲しい思いをさせたくないし、人を殺したりなんて間違ったことさせたくないもん」
「つまり、マイキーのため、か?」
「大雑把には? 恩返しではあるよね」
「……」

 なるほど、と場地は納得する。コイツはただの阿呆だ、と。

「お前、せっかくうまく隠れてたのにこんなことでバラしちまってこれからどうするつもりだよ」
「どうするも何もなくこれからも東卍で不良やってたいけど……。もしかして君を眷属にしたことで破門とかある?」
「いやソレは分かんねぇけど」

 コイツに関しては深く考える意味はねぇな、と場地は結論付けて駄弁りの体制に入る。もうこれからなる様にしかならないのは場地も同じことだった。ただ一つ気になるのはこうなった原因である稀咲をどうするか、ぐらいだった。

「ん? そーいや、眷属って何だ?」
「大雑把には手下みたいな感じ? 一応命令とかすればキョーセー力? ってのを持つとか聞いてるけど」
「ふうん?」

 よく分からないが、自分はコイツの下になったのか、と思うと少しだけ腹立たしかった。

「ソレ下剋上とかできンの?」
「一応、俺の体液大量に摂取すれば君が吸血鬼で俺が眷属になるらしいけど、気持ち悪いからちょっとやだなぁ」
「俺もソレはやだワ」
 
卍卍卍
 
 そうして検査入院も終わり、元と変わらずに生活できるようになった場地は佐野の希望で再び東卍へと迎え入れられた。
 一度東卍を裏切った場地が再び壱番隊隊長になるのはどうか、と物議も醸されたが隊長として、創設メンバーへの拘り、その忠義故の行動だとして今回の騒動は不問とされた。そして、その代わりに参番隊の隊長だった稀咲が隊長をおろされた。林田の代わりは林が隊長代理という形で継ぎ、稀咲は愛美愛主と芭流覇羅からの新規参入者をまとめた陸番隊の隊長へと移った。
 最初の約束通りに林を無罪にできなかったため破門も考えられたがこの人数を他の隊に分散させるよりはまとめてしまった方が良いという判断だった。万が一の時は隊ごと切り落とすという事も考えられている。所詮は烏合の衆だと言う見解だった。

 そして、弐番隊の平だった武道は壱番隊平へと移動させられた。特にその必要は無いと場地と武道は抗議したが妙な生き物はまとめておくに越したことは無いだろうと佐野は宣った。本気で言っているというよりは気を揉ませたことへの仕返しというニュアンスがあったため二人は黙るしかなかった。
 吸血鬼とその眷属という関係ではあるが、共にいる必要は無いのだと散々主張したが佐野は頑なに二人をニコイチ扱いした。場地を武道の下だと揶揄う事で自分から離れようとした友人へ寂しさの当てつけをしているのだと二人は理解していた。そして二人をニコイチ扱いすると他の場地を慕う者から武道が睨まれるため、あの場で勝手な事をした武道への嫌がらせでもあった。
 子ども染みたソレは佐野の安堵と心配の裏返しであるため二人は大人しく従った。 
 
「お前等、案外うまくやってるよな」
「あ?」

 武道の元の所属である弐番隊隊長の三ツ谷が隊長同士での談笑中に場地へと声を掛けた。その目線の先には副隊長である松野とじゃれる武道がいた。自分の方がより場地のことに詳しいし、お前はもっと場地を知って役に立つようになれと場地の武勇伝をひたすら聞かせるのが松野の今のブームらしかった。睨まれるよりはいいが、これはこれでめんどくさいと武道は思う。しかし、どちらにせよちょっと乱暴である事を除けば同い年の松野とのじゃれ合いは武道にとっても楽しいものであった。
 そんな様子を眺めながら三ツ谷は安心したように言葉を続ける。

「正直、マイキーにアイツの面倒見ろって言われた時ぜってぇヤダって思ったんだワ。何かちんまいし得体が知れないし」
「……アイツの事は考えるだけ無駄だろ」

 そりゃお前の周りと比べたらお前のサイズ感も変わらないだろ、とは思っても口にできなかった。わざわざケツを蹴られる様な事を言う必要も無い。

「ドラケン助けたのは評価するけど、部外者が何でわざわざそんなことするかも分かんなかったしな」
「マイキーへの恩返しらしいぞ」
「あー、パーんとこの下っ端から助けられた奴な。でも吸血鬼だったらどうせ死なねぇし別にマイキーが助けなくても自分で何とかできたんじゃねぇの?」
「んー、微妙だな。アイツ筋力はヒトと変わんねぇどころかガキの頃のままだし、耐久性と治癒力は多少上がったらしいが痛いもんは痛いっつってた」
「ふぅん?」
「ミンチになっても死ねないから気を付けろだとよ」
「……」

 場地の言葉に三ツ谷は閉口する。それは実際にミンチにされた事があるということなのか、それとも危険性を大袈裟に言っただけなのか。それを場地に聞くことは気軽には出来なかった。
 いっそ死んでしまいたい時に死ねない生き物に場地もされてしまったのか、という怒りとそれでもこうして話せていて良かったという思いが心の中で喧嘩をしていた。

「俺はよォ」
「あ?」
「あん時もう死んでたんだワ。血が流れ過ぎて、心臓が止まって。死ぬつもりだった。マイキーと一虎のために死んでいいんだと本気で思ったんだ」
「……」
「でも、俺が死んでもアイツ等は止まらなかったんだな」
「それは……」
「死んで為せることがあると思ったあん時の俺は馬鹿だったって分かるよ。結局、アイツが俺を生かさなきゃ俺がしたかった事はできなかった」

 だから、アイツを恨んでやるな。と、場地はゾンビの様になった自身を何とも思っていないのだと笑う。
 そして、未だ松野とじゃれている武道を見た。自分は死ぬつもりで死んで、本来の目的のためにアイツに助けられた。
 しかし、アイツはどうして死んだのだろう。
 心臓が止まった状態で吸血鬼の血液を摂取すれば眷属になれる。そして吸血鬼になるには自身の体液を親である吸血鬼に摂取させる必要がある。
 まぎれもなく14歳であると言うアイツは誰に眷属にされ、どうやって吸血鬼になったのか。親がいないとはどういう事なのか。
 そう考えると憐憫なのか、胸の奥がチクりと痛んだ気がした。
 
卍卍卍
 
 場地が転化してからしばらく経ち。日常が戻り、すっかり肌寒い季節になった。
 眷属になったからと言って温度を感じなくなるということはなく、薄い皮下脂肪のせいでダイレクトに熱を奪われているような気がして場地は一応は主人である武道を懐に入れて暖を取っていた。これが子ども体温というヤツか、と吸血鬼の癖にホカホカと暖かい武道を抱き締めながら思う。
 腕の中で大人しくしているこの子どもはコレ以上大きくなることはなく、自分ももう歳をとらないのだと思うと何だか不思議な気持ちだった。

 こうしてただくっついていると何だか落ち着くような心地がして、隊長と平隊員である前に自分はこの少年のしもべであり子どもなのだという実感が湧く。今更実の母とこんな距離で引っ付くことはないが、幼い頃に感じた母親の安心感の様なものが確かにあった。

 眷属だからと何かを要求される事も無く、集会では上下関係をそれなりにしっかりと弁えた行動を武道はとっていた。そうなると、この少年の下に自分が付くのが癪であるという気持ちもだんだんと湧き上がらなくなってきて腕の中の体温をどこか尊くすら思えてくる。コレが身体の変化に慣れたためなのか、もともと自分と武道の相性が悪くなかったからなのかは今の場地には分からなかった。
 その頃には場地と武道は東卍の集会以外のプライベートでも会う様な仲になっており、バイクを持たない武道を後ろに乗せて二人でツーリングに行ったりもする。最初は松野と三人でというパターンが多かったが、最近は二人きりになりたいと思う様にもなり二人きりの時間が増えてきていた。

「……」

 夏でも無いのに海を見に行くか、と出かけた東卍の拠点から離れた田舎の道の駅。自動販売機で買った缶のココアで暖を取りながら武道はその瞳にどこかどんよりとした海と空をぼんやりと映していた。海の青も空の蒼も、コイツの星を散らした様な瞳には敵わないんだなぁ、と場地も景色を眺める。
 武道の瞳がただの青ではなく、たくさんの色を映し虹の様に輝いている中で青く見えるだけなのだと気付いたのはいつだったか。初めは大して興味の無かったご主人がこの僅かな間にいつの間にか大切なものになっていた。

「あのよォ」
「はい?」

 この不思議な気持ちを何と言えば良いのか分からずに場地は思った事をそのまま伝える事を選んだ。

「正直、お前とこういう仲になる気は全く無かったんだけど、吸血鬼と眷属ってこういうもんなのか?」
「……」

 逃げられない様に腹に回した手が拒絶されることはなく、二人の間の強制力というものを使われる事も無く、武道はその疑問に真っ向から向き合った。

「俺は吸血鬼初心者ですし、もしかしたらそうかもしれません」
「……」
「……でも、俺の時は違いましたよ」

 少し苦い思い出を話すように、武道は口を開く。あまり人に話したくない事を話させようとしているのだと気付いたが、場地はその話を聞きたかった。武道の事を知りたかった。

「俺が眷属になったのは2年くらい前、まだ小学生の頃でした。女の子と男の子が変な奴に襲われていたのを庇って死んだんですけど、その変な奴が小児性愛の変質者の吸血鬼で、まぁコイツでもいいやと代わりに眷属にされたんです」
「お前……」

 場地の心配する様な声にヘラリと笑って武道は話を続ける。

「死ぬほど苦しい転化が終わった時にはどこかへと連れ去られていて、しばらく遊ばれた後に今度は俺が吸血鬼であっちを眷属にして遊びたくなったらしい変態に吸血鬼にされました。俺はアイツにはまったく好意が湧かなくて、強制力ってのも分からずに自分で自分をミンチにさせました」
「……」
「怖くて気持ち悪くて、どうしたら良いのかも分からなかった俺の最終的な死ねって命令を聞いたソイツは死にました。その直後くらいに吸血鬼連盟の人に助けられて今に至るんですが、まぁそんな感じで好意を絶対に抱くワケではないですよ。たぶん」
「……そうか」

 当時の武道を想い、場地は少し抱き締める腕に力を込めた。辛かったであろう当時の事を感じさせない武道の声にまだ心の整理がついていないのだろうと察する。

「今はもう下剋上とか考えてねぇけどよ」
「はい」
「もし死にたくなったら俺が殺してやるよ」
「ふふ、ありがとうございます。場地くんこそ、嫌になったら言ってくださいね」
「おう」
 
 もしも永遠の命を厭う事があれば、最期を与える役割は自分がもらえるのだな。と、薄暗い海を見ながら場地はぼんやりと考えた。
 


 



本編に入らなかった裏設定。

・助けた女の子と男の子はひなちゃんと稀咲くん
・実は転化は2年前じゃなくてもうちょい前。助けられたのが2年前。そっから監禁されてた。
・立場逆転の際はヤられたのではなくおしがまからの口内放尿プレイされた。
・ブチ切れで「変態!!ぐちゃぐちゃになれ!潰れろ!」と勢いで。
・異形化して帰ってきた息子に絶望して無理心中しようとしたけど息子は死ねなかった。


ってのが実はあったけどバジ武には関係無いので入れなかった。