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えっちなオネーサンは世界を救う


 龍宮寺は前世というものを信じていた。というよりも覚えていた。
 物心つく頃には風俗店のプレイルームを城として育ち、暴走族の副総長として名を馳せた青春を送り、一人立ち立ちしてからはバイク屋として生計を立てていた。
 そして、愛した男のために若くして命を落とした。そんな人生だった。
 龍宮寺が愛した男はたくさんいたし、愛した女もいた。
 そんな人生を思い出したのはある朝目が覚めて自室を見た時の事だった。

「ん? 此処、タケミっちの部屋じゃねぇか」

 そう無意識に思ってからは早かった。タケミっちって誰だという所から前世の死因、所属していた暴走族、敬愛する総長、たくさんの事を思い出していった。あまりに膨大で劇的な人生の記憶にその日は熱を出して幼稚園をお休みさせられた。
 そんな普通の家庭での新たな人生に、龍宮寺は不満は無かった。前世と比べるとあまりにも幸せな人生だった。両親は健在で、一軒家に自分の部屋がある。夜な夜な薄い壁から他人の性交の音を聞かせられることもない。

 しかし、何故前世の知り合いの家で自分が生きているのかが分からなかった。幼稚園や学校で何となく見知った顔を見ることはあった。武道の幼馴染や友人の顔だ。
 どうやら自分が花垣武道の立場に生まれたらしいということだけは把握し、それでも自分が武道ではないためにその武道の友人達と特に関わる事はないらしいと知った。

 前世においては一つ年下だった武道の立場で生まれたということは、かつての自分の仲間たちは一つ年上になるのだろう。今世の龍宮寺も発育は良かったので一つぐらい歳が違っていても問題は無いだろう、と龍宮寺はかつての相棒と出逢った日にその場所へと赴き、無事年上の相棒と自分のトレードマークをゲットした。
 前世の様に風俗店でバイトすることはかなわなかったが、お小遣いとお年玉を溜めて蟀谷に墨を入れた時は流石に親に怒られた。幸せな一般家庭の子どもとは不自由な生き物だと少しだけ思う。
 それからしばらくしないうちに龍宮寺堅はかつてのドラケンと同じ様に強くてワルい小学生として名を馳せ、敬愛する総長……佐野万次郎と出逢った。
 新たな人生でも龍宮寺は龍宮寺だった。
 一つの疑問として残るのは、自分が一般家庭の子どもに生まれたのならば本来この場所にいるべきだった武道はどこへ行ってしまったのかという事だった。
 

卍卍卍

 
 その疑問は早い段階で解決した。

 万次郎の通う中学校に小学生の身で世話を焼きに行くこと数回。あの、佐野万次郎の世話を焼いてご機嫌をとってくれる子どもはその見た目のワルさから遠巻きにされつつも重宝された。
 朝起こして、学校に通わせ、好きな給食と嫌いな給食の時で機嫌を悪くさせない様にフォローする。前世でずっとやっていた事だったため造作も無いことだったが、万次郎にばかり気を遣って時間を裂けない教師たちからは何とか龍宮寺を来年、万次郎の通う中学へと進学させることができないかとまで検討されていた。まだ万次郎が入学して2カ月も経ってはいないのに気の早い話だった。

 そんな万次郎の通う中学に武道はいた。
 太っても痩せてもいない体躯は以前とそう変わらない様子であり、小綺麗な格好をしているのに周りから何となく遠巻きにされていた。

「なぁマイキー、アイツどうかしたのか?」
「んー?」

 他人にとことん興味の無い万次郎が同じ中学であるというだけで武道の事を知っているかは分からないが、とりあえず聞いてみればやはりつまらなそうに武道を見た。

「あー、アイツな。虐められてるワケじゃねぇけど友達いねぇよな」
「ふーん、何で?」
「何かエンコーやってるとかそういう噂は聞いたことあるけど知らねー」
「……」

 万次郎の話を聞いて龍宮寺は事態を把握した。
 龍宮寺が武道の立場で生まれたように、武道は龍宮寺の立場で生まれてしまったのだ、と。
 つまり、今世の武道は風俗店のプレイルームを間借りして生きているということだ。帰る場所もネオン街であれば確かに援助交際をしていると勘違いされても仕方が無いだろう。
 龍宮寺の様に見た目が分かりやすくヤンチャしていれば不良として怖がられるだけで済んだが、武道は良くも悪くも普通だった。前世での最悪なファッションセンスも鳴りを潜めているのを見ると恐らく嬢やオーナーから服装の指導をされているのだろう。

 強い奴にしか興味の無い万次郎が、今の武道に興味を持つということは無く、一人ぼっちで周りから遠巻きにされている風俗街育ちの少年がそこにいた。自分が自分でなければあの立場にいたのは自分だったのだと思えばなかなかにハードな人生だったのかもしれないと龍宮寺は再認識する。

 しかし、そんな事よりも気になったのは武道に前世の記憶があるかという事だった。何故か立場を逆転して人生のやり直しをさせられている自分達が、どういう認識をしているのか。自分と相手は同じ記憶を持っているのか。気になる事はたくさんあった。
 
 前世では命を差し出すほどに愛した男が、今世ではどんな男になっているのか知りたかった。
 
 武道をジッと見つめる龍宮寺を万次郎は微妙な顔で見る。
 絡みは無い相手であるが、援助交際をしていると噂され、どこか影の様なものがあるあの少年に何を思う所があるのか。教師や大人からは評価される事が多いイイ子ちゃんであるらしいが、時々見せる色気のある大人の様な表情はなんだかゾワゾワする気分にさせられて万次郎は武道の事が苦手だった。

「何、ケンチン。アイツのこと気になるの?」
「んー? ちょっとな」

 万次郎もお年頃というヤツであり、捨てられたエロ本を仲間と見てドキドキしたりする少年であった。しかし同い年の、しかも男が、援助交際しているというのは何だか生々しくて食指が動かない。そんな相手に自分のお気に入りの年下がたぶらかされてるのは何だか気に入らなかった。

「そんなに気になるならシンイチローに話聞いてみたら?」
「真一郎くんに?」
「おう、アイツ、なんかシンイチローと知り合いみたいだから」
「ふぅん……」

 エンコーの話を聞いて幻滅してしまえ、という気持ちが万次郎にはあった。
 

卍卍卍

 
 東京卍會の発足まであと少しという頃、つまりは真一郎の命日までも2カ月ほどしか時間が無い頃だった。

 他の創設メンバーが小六で、龍宮寺が小五だった夏からしばらく経ち、一つ年齢が違うのに随分と仲良くなったと思う。
 そろそろヤンチャを卒業する先輩に壊れかけのバイクを譲り受け、自力で修理していく。やっぱりというか車種はゼファーだった。前世でもらった先輩とは別の人だったのに同じ車種に巡り合えたのはもう運命だと龍宮寺は確信している。

 そして、バイク弄りの基礎を教えてもらうという名目で龍宮寺は真一郎に近付いた。
 思えば、真一郎の死から万次郎の心の隙間は広がっていったように感じる。ソレを防げばきっと前世の様な悲劇の連鎖は防げるのではないかと龍宮寺は考えていた。
 真一郎の死を防ぎ、あわよくば武道が今どういった状況なのかも教えてもらいたかった。そして、その機会は案外早く訪れた。

「こんにちはー」

 真一郎の店でバイクの修理を見せてもらっていた時だった。今世では初めて聞く、前世では耳に馴染んだ声だった。
 その声に振り替えれば、記憶と変わらないフワフワとした金髪にキラキラとした黒い瞳。不良ファッションはさせてもらえなかったのか比較的普通な格好の武道が立っていた。

「あれ? こんにちは、初めましてですかね?」
「え、お……おう」

 龍宮寺を見て武道は軽く小首を傾げた。まるで初めて会ったかのような反応に龍宮寺はすこしだけ落胆する。
 
 自分に記憶があるように、武道にも前回の記憶があればいいと思っていた。
  今まで会った全ての人間に龍宮寺と同じ記憶は無かった。聞いて確かめたワケではないがそうであろう反応しかされなかった。もしも記憶があるとしたらコイツしかいないと龍宮寺は希望を持っていた。

 その希望が急速に萎んでいく。寂しいと思ってはいなかった。それでも、武道と自分の間には何か特別な繋がりがあるのではないかと思っていた。
 しかし、武道は龍宮寺を見ても何の反応も示さなかったのだ。
 その落胆を感じ取ることすらなく、武道は龍宮寺を気にせずに真一郎に近付く。ガサガサとコンビニの袋を鳴らして注文されていたらしいドリンクとアイスを取り出した。ソレをついでに龍宮寺にも分け与え、一緒にバイクの修理作業を眺める事になった。

「……刺青、カッコいいですね」
「え?」

 まだ少し諦めきれずにソワソワする龍宮寺に武道は気付いてか気付かないでか声を掛けた。自分の額を指差して武道はへにゃりと笑う。

「俺は花垣武道って言います。君は真一郎くんの知り合いの人?」
「俺は、龍宮寺。龍宮寺堅だ」
「あぁ! だからドラゴンのタトゥーなんですね! 黒龍の人ですか?」
「あ? 違ぇし」

 無邪気に笑う武道に罪は無いがあまり良い思い出の無いチームの所属かと聞かれると少しだけムッとする。そんな龍宮寺が更に文句を言う前に真一郎の大きな笑い声が響いた。

「タケミチー、ソイツまだ小学生だぜー?」
「えっ!?」
「やっぱ気付いてなかったか」
「うっそ! てっきり年上の人かと……えぇ⁉ 年下なの⁉」

 本気で驚き、困惑する武道に再び大笑いする真一郎。その仲の良さそうな雰囲気に龍宮寺は何だか面白くない気持ちになる。
 記憶がない事に落胆はしたが、すぐに他人だと思う事も出来なかった。

「そっかぁ、年下かぁ」
「……なんだよ」
「いやぁ、小学生って思うと急に可愛く思えてきちゃって……。堅くんって呼んでもいい?」
「……いいけど」

 コイツ相変わらず調子に乗りやすいな、と呆れてしまうがソコが武道の可愛い所でもあると龍宮寺は諦める。喧嘩になれば簡単に押し倒せてしまえそうな貧相な男が言うに事欠いて自分に可愛いなどとは片腹痛い。
 しかし、ヘラヘラと笑いながらも確かにどこか影のある不健康そうな男に妙な色気を感じてしまっているのも本当だった。

「お前なー、ソイツ万次郎の友達だぜ?」
「そんなこと言われても、別に万次郎くんは関係ないし! 学校でも全然絡み無いし多分嫌われてるもん」
「その嫌われてる相手の友達と気にせず仲良くしようとする辺り、お前の肝は太ェわ」
「知ーらない。っていうか真一郎くんは万次郎くんのことよりも、早くイザナくんと仲直りしてよ。総長を班目くんに譲ってどっか行っちゃったままじゃん」
「っ⁉」

 聞き覚えのある名前に龍宮寺は思わず反応してしまう。
 武道が口にしたのはあの黒川イザナの名前だ。前世で関東事変を起こし、エマを殺し、稀咲に殺された血の繋がらない万次郎の兄。
 そんな相手と今世の武道は繋がりがあると言うのか、と。

「うるせーなぁ。人には色々あるんだよ。クールダウンが必要な時期もな」
「そんな事言ってると大事なもの取りこぼしちゃうんですからね!」
「壊しきるよかマシだわ」
「イーだ、意気地なし!」
「なんだとぉ?」
「……」

 わざと子どもっぽい言葉を吐いているが、武道の言葉は真一郎を誘導している様に感じられた。
 コイツは本当に何も覚えていないのか?
 もしや、コイツはまだ一人で戦っているのではないか?
 そんな疑念が龍宮寺の中で渦巻き始める。幼馴染も中学の友達もいないこの状況で、武道が独りで全てを救おうとしているのならば龍宮寺は自分だけがのうのうと生きているのは許せない。

「……お前」
「堅くんもそう思うよね⁉」
「あ? 何がだ?」
「真一郎くんがモテないのはそういう及び腰な所が原因ってこと!」
「……何の話だ」

 いつの間にか移り変わっていた話題について行けずに龍宮寺は閉口した。

「とにかく! 8月13日は絶対に来てくださいね!! 待ってるんですから!」
「分ぁった、分ぁったてば。たく、その日はフツーに平日だってのに」
「この機会のがしたら次は無いんですからね! 俺、絶対アンタのこと諦めませんから‼」
「……おぅ」

 その日付を龍宮寺はしっかりと覚えていた。
 そして確信する。武道はまだ一人で戦っているのだ、と。

「……」

 真一郎の腕に絡みつき、無邪気を装っているがやはりその仕草はどこか婀娜っぽく、龍宮寺はまさかと息を飲んだ。
 万次郎から聞いた援助交際の話が頭を過る。てっきり、ネオン街育ちのために勘違いされているだけだと思っていたが、もしソレが本当だったら、と。

 今の武道に使える手など多くは無いだろう。しかし、その身体一つで救えるものがあるのならきっと武道は差し出してしまうと龍宮寺は確信を持っていた。
 まさかあの武道がハニートラップをするなんて、と信じられない気持ちと武道のなりふり構わない自己犠牲的な部分があると知っている事実の両方が龍宮寺の頭をグルグルと回っていた。そして同時に、コイツにだけそんな負担を掛けられないという使命感と他の誰かに汚されることの怒りが湧く。

 武道の事は前世から愛していた。万次郎や創設メンバーと同じくらい大好きだった。
 しかし、今世になって、全く違う環境でそれでも皆を救おうとする武道に前とは違う感情が湧いて来るのを感じる。

 エマに感じていた庇護欲の愛とも違う、劣情の様なものだった。
 前世の未来で、万次郎のために日向との結婚式直前に心中してしまったという武道を今は責めることはできないだろう。真綿に包む様に愛したい女へのものとは違う、もっと別の良くない想いだ。
 
 例え幸せにすることが出来ないとしても、周りから詰られようとも、手を伸ばしてしまう男がいるのだ、と。
 
 もしも自分が地獄に堕ちるとしたら、龍宮寺はエマを手放して自分だけが堕ちると思っている。どこかできっと幸せにしているだろう愛した女への想いを抱えて独りで歩いていける。
 武道も同じなのだろう。
 きっと橘日向とは出逢わない、稀咲鉄太を狂わせない人生を選んだのだろう。そうすることで救われる命があるのだと理解してしまったからだ。その選択をする気持ちは龍宮寺にも理解できるものだ。きっと前回の万次郎がした選択もそういうものだ。

 それを許さずに手を伸ばした男が、その選択をすることを龍宮寺は許せなかった。

 
卍卍卍

 
 武道の尽力虚しく、イザナと真一郎が仲直りをすることは無かったらしい。前回と同じ様に9代目黒龍にちょっかいを掛けられた一虎を守るという名目に東京卍會は設立された。

 当然の様に東卍は黒龍に勝利し、未だ仲良しグループの域を出ない暴走族は楽しくツーリングをする日々だった。
 横浜で原チャリを壊す事件も消化し、真一郎の命日は刻一刻と近付いている。場地と一虎に盗みはするなと何かにつけて小言を吐いているがどれだけ響いているかは分からない。一虎の家庭環境の問題は今の所誰も手を出せていないし、多かれ少なかれ自分達不良が抱えるよくある事だった。時間が解決すればいいとしか言えないし、龍宮寺が踏み込むべき領域でも無かった。

 その数カ月の間に龍宮寺と武道は時々話をする仲になっていた。
 真一郎の店で会ったり、万次郎の世話をしに行った中学校で遠目に見て軽く手を振ったり、その度に万次郎はあまり面白くなさそうな顔をしたがそのくらいの自由は龍宮寺にもあると思っている。
 わざとらしく「けんちんもアイツの毒牙に掛かっちまったー」と嘆く万次郎が鬱陶しくないという事も無かったが、真一郎との仲を考えれば面白くない気持ちも分かった。

 相変わらず学内に友達らしい友達はおらず、真一郎の店で元黒龍のメンバーに可愛がられていることが多い。そして夜にはネオン街に消えていくその横顔は歳不相応の色気を持っていた。前世の自分ももしかしたら他人から見たらそんな風に見えていたのかもしれないとも思う。
 話をして仲良くなっても、武道は龍宮寺に自分の素性を話すこともなければ前の記憶があるという事も話してはくれなかった。少し踏み込んで話をしてもはぐらかされてしまう。

 その拒絶に攻めあぐねてしまい、とうとう迎えた8月の夜。
 家を抜け出して龍宮寺は真一郎の店を訪れた。シャッターの閉められた商店街はどこか不気味で、それでも前世の犯行時刻になっても誰も現れないことに安心した。

 場地と一虎へのアプローチはウザがられることの方が多く、それでも、万次郎には秘密だけれどと言いながら兄の真一郎がバブの整備を念入りにしているからもしかするともしかするかもしれないと伝えていたのは効果があったのだろう。
 今日を乗り越えれば全てがうまくいくとは思ってはいない。それでも、今日が一つの山場だった事は確かだろう。

 前回は店内にいたらしい真一郎もいなかった。
 きっと武道と一緒にいるのだろうと思うとどうしようもなく悔しい様な気持ちになる。もしも武道と腹を割って話をしていれば違う結果にもなったのだろうか、と同じ事象に立ち向かう仲間になれなかった事を悔やむ。
 しかし、コレはこれから起こる怒涛の悲劇の前哨戦に過ぎない。この先、武道を理解してやれるのは自分しかいないのだと思うとまだ諦めるわけにはいかなかった。

「あー、だせぇ」

 うんざりした気分で溜息をついて顔を上げる。

「は?」

 その先に見知った瞳と目があった。
 背中に真一郎を背負ったそう大きくは無い体躯。フワフワの髪にキラキラ輝く黒い瞳。武道だった。

「え? 堅くん?」

 真一郎は明らかに酔っぱらった様子で、微妙に正気を保っていない。何かうわごとのように女の名前を呻いていた。

「武道?」

 すぐにその重そうな荷物を取り上げれば武道は素直に渡し、慣れた様子で店の鍵をポケットから取り出した。ドアを開け、真一郎と中へと運びこみ、来客用のソファに寝かせるとすぐにいびきをかき始めた。
 その様子を何とも言えずに見ていると不意に武道が龍宮寺をに振り向いた。

「堅くんは家出?」
「いや、そういうワケじゃ……」

 万が一にも場地と一虎が盗みに来たら嫌だと言う思いでこの場にいただけだった。真一郎は武道と一緒にいると知っていたが、万が一の事があったらと思うと居ても立っても居られなかった。それだけだった。

「ってか、真一郎くんはどうしたんだよ」
「あぁ、今日は真一郎くんのお気に入りの嬢が掛け持ちしてるキャバでお誕生日パーチ―だったのでしこたま飲ませました」
「は?」
「この日にお誕生日の嬢を真一郎くんにあてがうの、結構苦労したんですよ? 何か邪魔があっても嫌ですし、今日まで誰にも秘密にしてましたけど」

 どこかシニカルに笑う武道に龍宮寺は何か嫌な予感がした。恐らく、自分の気苦労が全て無駄だったと分かる事実が開示されようとしている。 

「ドラケンくん、えっちなオネーさんは世界を救うんです」

 今世で初めて呼ばれたその名前はずっと呼ばれたかったものであるが、今じゃないと心が訴えていた。

「えっちなオネーさんが気を引けば、大抵の事は何とかなっちゃうんですよ」
「は?」 
「イヌピーくん家の火事の犯人も、稀咲と出逢うハズだった時の仔猫を虐める中学生も、えっちなオネーさんをさりげなく派遣することでソワソワしながら更生したんです。これはもう真理なんですよ……」

うんうん、と一人頷く武道に何を言っていいのか分からずに龍宮寺はとりあえず口を開いた。
 

「あー、じゃあ俺にはえっちなオニーさんのタケミっちを派遣してくれ」
「ニッチな趣味に目覚めました?」
「お前のせいでな」