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童貞なのが悪い、前編


「んっ♡ は、ぁ……♡」
 
目の前で薄ピンクに上気した白い肌が揺れている。
汗に濡れた艶やかな黒髪が乱れて、とろりと潤んだ瞳が欲情を隠しもせずに露わにしていた。
 
「……っ♡ んぅ…♡」
 
ズップリと真一郎を咥えこんで、声すら我慢しながら懸命に奉仕する年下の青年。しかし、本人もかなりつらいのか吐息の中に甘い呻きが混ざっていた。
目の前に広がるあまりに淫靡な光景に真一郎は眩暈がしそうだった。
気を抜けばすぐに達してしまいそうで、真一郎はどうしてこんなことになっているのかと考える。本当なら自分はこんなことをさせるような男ではないハズなのだ。
 
何もかもあの男が悪いのだと、真一郎はしばらく会っていない幼馴染を内心でなじった。
 
・・・
 
 
一昔前、一世を風靡したアイドルグループ黒龍。すこし治安の悪い男達というコンセプトによる熱い歌唱と迫力のあるダンス、そして何よりも整った容貌を武器に活躍していた。余程世俗を嫌って山奥に引きこもらない限りはラジオや街頭CMで毎日のように彼等の曲を聴かされる程の人気アイドルだった。
そしてそんな黒龍の初代リーダー総長を務めていた男こそが佐野真一郎その人だった。
 
そんな時の人だった男は今はその頃の経験や繋がりを生かし、今は芸能プロダクションの社長をしていた。社長業とタレント業を兼任しながらもいまだ第一線を張る俳優としても忙しく働く日々だった。
そんな真一郎の元に懐かしい人物からの連絡があった。
 
明石武臣。
幼馴染にしてアイドル時代の相棒でもあった男だった。
 
真一郎がグループアイドルを卒業して一人の歌手、俳優として活動をすることになった際に一緒にアイドルを辞め、一足先にプロデュース業界へと進んで行った男だった。
数年前に独立、起業し、タレントを兼業する真一郎とは違いあまり表には顔を出さずに裏方をメインに活動していたため、真一郎もあまり連絡を取ってはいない。
 
そんな男からの連絡に、真一郎は二つ返事で応えた。
 
曰く、数年前から傾いていた経営がいよいよ不味くなり事務所を畳むことにした。所属タレントを放り出すわけにもいかないため、次の事務所を斡旋してやりたいから話を聞いてくれないか、とのことだった。
武臣の会社がうまくいっていない事は以前より各所から聞いていたため、真一郎にとってその打診は予想の範疇だった。
元々楽観的な性格である真一郎は自分から武臣を助ける様な事はせず、アイツなら自分で何とかするだろう本当にダメだったら絶対に向こうから連絡がくる、そう確信していた。
そしてその予想通り、武臣から連絡は来た。真一郎は幼馴染のそういう情けない所が嫌いではなかった。

詳しい話は契約書と共に男を一人寄越すからソイツと話をしてほしいと言われ、武臣本人に会えない事を少し寂しく思いつつも仕方がないと諦める。同じ社長という立場でその忙しさは想像に容易く、しかも経営が傾いて畳む準備中となれば仕方がない、と。
もしもこの場にアイドル時代からの仲間である今牛や荒師がいれば「そんな大事な話を人任せにするから経営が傾くのだ」と苦言を呈しただろう。
しかし、真一郎は基本おおらかな性格のためあまり他人の事には口を出さない。助けを求められれば応えるが自らお節介を焼くタイプではなかった。幼馴染に対してドライと言えばドライであるが、そうでも無ければそのネームバリュー故に背負うものが増えすぎて潰れてしまうだろうということも何となく分かっていた。
 
何かと誘惑の多い芸能界で元アイドルにして現タレント兼社長である真一郎に言い寄る人間は多い。
大事にすべき人情と切り捨てるべき憐憫の取捨選択をし続けることも仕事の一つだった。
本人が来て幼馴染の情に訴えかけるつもりが無いのならば、使いの男の話をビジネスとしてしっかりと聞かねばならない、と真一郎は考える。甘えられるのは嫌いではないがおざなりにされるのは好みではない。

指定されたホテルのラウンジを時間ピッタリに訪れればスタッフに奥へと通される。最低限の下準備はされている様だった。
人目に付かない半個室の中へと入ればそこに男がいた。黒の癖毛にカッチリしたスーツを着たその男はいっそ学生然とした様子で、スーツに着られてさえいた。
真一郎が室内へ入ると腰を上げキッチリと頭を下げる。まだ三十後半である真一郎からしても若く見えた。もしかすると十離れた弟と同じくらいかもしれない。
 
「この度は不躾な相談に乗っていただきありがとうございます。本来なら社長である明石が来るべき所をこのような若輩者が相手になってしまい大変申し訳ございません」
「いや、いいよ。それよりアンタは……」
「私、こういった者でございます」
「おう」

サッと差し出された名刺を受け取って向かいに座り、一通り確認する。明石プロダクションの所属であるが特別要職であるというワケではなさそうだった。もしかしたら断られるかもしれないと怖気づいた明石が責任逃れに下っ端を寄越したのかもしれない。
名札程度の意味しかない名刺であるが真一郎はニッコリと笑って懐にしまった。タレントはイメージ商売であり自分は社長であるとともに商品でもあるのだと真一郎は重々に承知していた。
無骨な不良集団というコンセプトの黒龍であったがアイドルという側面で最低限必要な愛嬌というものがある。特に裏方ではソレが大切だった。ワルで格好良くも好青年、ソレが真一郎の商業的イメージだ。
 
「……花垣武道、か」
「はい」
 
何となく、どこかで聞いた事のあるような名前だと思いつつもその顔に見覚えは無い。
意思の強そうな大きな目が印象的で磨けば光る物があるだろうな、と職業病的に判断する。それでも流石の明石も契約タレントを寄越すハズは無いので運営側なのだろう。
 
「うん、座っていいよ」
「はい、失礼いたします」
 
ビッと肩ひじを張っているのは緊張故か。初々しい様を可愛らしく思いつつ、大丈夫だろうかと心配になる。最悪、契約書さえしっかりしていれば何とでもなるがそれでは目の前の青年があまりにも哀れだ。

「それでは説明させていただきます」

真一郎の心配に反し、武道は案外スラスラと説明を始めた。土壇場の度胸はあるのだろう。そうでなければ明石もこの男を寄越さないだろうし、何よりも“あの”佐野真一郎と商談など辞退するに違いない事だ。
業界の古狸たちからすれば真一郎はまだまだ若造であるが、一般的に真一郎は日本のアイドルの絶頂期を作り上げ、若くして起業し、未だ現役で俳優業も熟すとんでもない男だ。自分が成した事を真一郎はよく分かっていた。
 
その真一郎相手にこれだけしっかりと対応できる時点でそれなりの練習を重ねてきたハズだ。もちろん、芸能人を相手にするミーハーな気持ちで真一郎と関わる人間も多くいるが、武道はそうではないと真一郎は分かる。
どちらかと言えば畏怖を孕んだ視線がそんな軽い感覚とは程遠いものだった。
 
そうして武道を観察しつつ契約を確認していく。
真一郎にとっても悪くはない内容だった。そこまで心配はしていなかったが万が一という事もある。

「まぁ、悪くはない話だな……」
「本当ですか!」

少し嬉しそうに武道が笑う。先ほどまでの硬い表情より余程良い表情だった。
弟がいる身としては若者はこのくらい素直でかわいいのが良いと真一郎は内心で思う。そして少しだけ意地悪がしたくなる。

「だが、あと一押しくらいあると嬉しいんだがな……?」
 
ニヤリ、と渾身の悪い顔で真一郎は嗤う。
もしも武道がずっと萎縮したままの可哀相な青年だったらこんな事はしなかったし、もう少し契約内容について不勉強だったら相手にもしなかっただろう。

所謂かわいがりというヤツだった。
ヤンキースタイルの現役アイドル時代から黒龍では冗談としてよくこういう事がされていた。期待を込めたちょっとした無茶ぶりでどう応えてくるかを見る。遊びやからかいの様なものだ。
上手く答えられなくても問題はないし、上手に応えられたら何か奢ってあげたりこの先も目を掛けてやったりする。それだけだ。
 
「……」
 
さぁ、どうでる。と武道を見れば少し潤んだ様なキラキラした瞳が揺れて、すぐにグと覚悟を決めた顔で真一郎をジッと見つめた。
 
「は、い……。そのつもりで、上に部屋を取ってあります」
 
「へ……?」
 
 

♡♡♡
 
 
あれよあれよという間に部屋へと導かれ、先にシャワーを浴びせられ、真一郎は武道が準備を終えて浴室を出てくるのを待っていた。
 
「(コレは所謂アレだよな……。枕営業とかいうイカガワシイヤツ……)」
 
バスローブを纏って、ベッドに座り、真一郎は頭を抱えた。
本来ならこんなことはしてはいけないと分かっている。自分から仕掛けたワケではなく相手から誘ってきたことだったとしても受けてはいけない話だ。
そもそも、こんなことをさせずとも武道の持ってきた契約書は問題の無いものだった。ちょっとイジワルをしてやろうくらいの軽い気持ちだったのに何故こんなことになってしまったのか。
 
「(ドッキリじゃ、ないしなぁ……)」
 
もしそうなら俳優人生も社長人生も終わる。
武道の準備中にそういった類の物が無いことは確認済みだった。
 
枕営業など上に部屋が用意されていると言われた時点で断るべきだった。
ソレができなかった時点で武道のペースだったのだろう。
 
あの瞳に気圧されたとしか言いようがなかった。
男なんぞ抱けるか、と突っぱねることもできたハズなのに、ソレをすれば敗けな気がして、のこのこ着いてきてしまったのが真一郎の落ち度だった。
 
現役アイドル時代から真一郎に恋人はいない。
どちらかと言えば女好きであるし、番組内では綺麗な女優に鼻の下を伸ばすシーンも多かった。しかし、実際に個人としての付き合いになれば話は別で、商品である自分が軽い気持ちでその価値を落とすことはできなかった。
 
もし本当に好きになれる人がいたならば。
誘惑の多い芸能界で何度も考えた事だった。真一郎だって義務感だけて童貞を貫いているワケではない。他の黒龍のメンバーも程々に遊んではいた。
特に今回の発端である明石など、女遊びが激しい事で有名だった。ワルであることが売りのグループであるのでそこまで大事にはならず世間からは「まぁそうだろうな」という反応が多かったのが幸いだった。明石は真一郎以上に口が上手いタイプであるので逃げるのも上手かった事を思い出す。

そんな中で、真一郎がそういった遊びをしなかったのはまず手順を踏みたいという気持ちが強かったためだった。
何度か友人として出かけたりして、お互い思い合って、手を繋いで、キスをして……。できれば初夜の前にはプロポーズまでしてしまえたら最高だと思う。

しかし、そんな前時代的な価値観を持った人間は多くない。
ましてや芸能界でそんな悠長な事をしていられる人物などほとんどいない。
まずはヤッて相性を確かめてから、ソレが真一郎周辺のスタンダードだった。それが受け入れられず、もういいやと異性との交際を諦めて数年。気が付けば魔法使いになっていた。
 
そんな身持ちの堅すぎる真一郎が、枕営業に着いてきてしまうなど前代未聞の出来事だった。
そもそも、現役時代から“カワイガリ”などほとんどしなかったのだ。
 
ソレが今回に限っては初対面相手に仕事相手以上の何かを見出してしまった。
 
「……」
 
認めるしかないのだろう。
きっとコレが一目惚れというヤツなのだ。
 
たくさんの人間を好きになってきたつもりだった。美人なおねぇさん、可愛らしい少女、素朴な裏方さん……。
食事に誘ったこともあれば誘われることもあった。しかし、こんな所まで来てしまった相手はいない。
 
ただの仕事相手で終わらせたくない。
 
此処で断ればきっともう二度と会う事はないのだろう。
誰だって枕営業を同性にしかけて断られたらもう二度と会いたく無くなるに決まっている。気まずいにも程がある。
 
そう思うと真一郎には武道を突っぱねる事は出来なかった。
 
今からでも順番を守るべきなのではないだろうか、と頭の中で冷静な自分が叫んでいる。それと同時に弟が「シンイチロー日和ってんの?」と発破をかけてくる。現実の弟がいたら「え、まだ童貞だったの?」と先にドン引きした顔を見せるだろうがそこは真一郎の中の優しい弟のイメージだ。
 
「……ふー」
 
長く息を吐き、混乱する頭を落ち着かせる。
大丈夫だ。相手に誘われるがまま付いて来てしまったが主導権は本来なら自分にあり、自分が枕営業をさせている状況なのだ。いや、何も大丈夫じゃない。何で童貞の自分が初対面の男に枕させてるんだ。そもそも何で武道は契約を取るために真一郎相手に枕営業をしようと思ったんだ。ちょっと気を引くための冗談言ったつもりだったのに覚悟決めた顔をしていたぞアイツ。臣か。臣に何か言われたのか? 臣のせいなのか?
 
全く落ち着けていない。
 
「……ぁ」
 
そんな大混乱の中、パタン、とドアの開く音がする。
そちらを見れば真一郎と同じくバスローブを着た武道がいた。
 
「お待たせいたしました」
「お、ぅ……」
 
軽く拭っただけのまだ湿った髪に、準備に時間が掛かったせいか少しふやけて赤くなった肌。潤んだ瞳はまだその覚悟を宿したままで、しっかりと真一郎を射抜いていた。
 
武道はゆっくりと真一郎の元へと歩いてくる。
真一郎はベッドに座ったまま、自分は間抜け面をしていないかばかりが気になった。
 
先ほどまで考えていた、まだ断れるかという考えは頭の片隅に押しのけられて、目の前の光景に釘付けになってしまう。
 
「失礼します」
「んっ……」
 
高級ホテルのベッドは音など立てずに武道の体重を支える。
真一郎の肩に腕を回して、片膝をベッドに掛ける。しな垂れかかる様に顔を寄せて、瞼を閉じて、唇を合わせた。
フワリと柔らかい感触がして、ボディソープのシャボンの香りが鼻腔を擽った。
 
「ふ、ぅ……」
 
何度か角度を変えて唇をついばみ、遊ぶように、その感触を確かめる様に触れる。薄く開いた唇から吐息が漏れて、粘膜が接触してもいないのに互いの興奮が感じられた。
 
「んぅ……っ♡」
 
真一郎は引き寄せるように武道の頭を掴んでその中へと舌を侵入させた。受け身だった真一郎が突然動いたことに驚いたのか、鼻に掛かった甘い声が漏れて武道は眉を寄せる。
その声も表情も逃したくなくて、真一郎はジッと見つめ、武道に集中する。
 
舌を絡め、喉奥を擽って、上顎をなぞる。
その度に武道は縋る様に回した腕の力を強め、腰を揺らした。少し苦しそうなのに欲情が見て取れて、真一郎は安心して武道の口を貪った。
満足するまで口腔を荒らし、力が入らなくなって真一郎に縋りつく武道に唾液を飲ませる。
その姿が哀れで、武道から始めたことなのに無理矢理手籠めにしている様で、少しだけ罪悪感が湧く。しかし、ソレ以上に興奮していた。
 
「あ……は、ぁ♡」
 
縋りつかれ、密着した胸が荒い呼吸に上下している。口の端から呑み込み切れなかった唾液が漏れていた。
お互いに隠しようが無いほど興奮している。もう今更やめるなどできない事は分かりきっていた。
 
「あ、だめ、です……♡」
「あ?」
 
バスローブの中に手を忍び込ませようとして、武道に止められる。思わずドスの利いた声を出してしまったが武道は怯える様子も無く興奮にぼんやりとしたまま真一郎から身体を話した。
 
「オレがやんなきゃ、なので……♡」
「お、ぅ……」
 
スルリと萌したモノを撫でられ、真一郎はビクリと身体を震わせる。
床に座る武道の前に足を広げ、バスローブを寛げられるのをただ見ていた。
 
「わ、ぁ……♡」
 
長身の真一郎に相応しいサイズのソレに少しだけ怖気づく様な表情をするも、それ以上に興奮した声が漏れる。どうしようかと逡巡し、武道は両手でその屹立を包み込んだ。
そして、その雁首にキスをする。
 
「んっ♡」
「ッ」
 
その光景だけでイッてしまいそうな程、真一郎は興奮していたがそんなことになっては格好が付かないので何とか耐えた。しかし、ドプリと漏れたカウパーが武道のそう高くはない鼻先を汚す。
やっちまった、と真一郎が焦る前に武道がその先走りを舐めとる様に竿に舌を添わせた。
 
「ぐ……ぅ」
 
溶けかけのアイスキャンディでも味わうかのように武道は懸命に肉竿に奉仕する。ソレがいやらしくて、幼気で、真一郎を興奮させた。低く唸り、喘ぎ声を飲み込み、同時に頭を掴んでその口を性玩具(オナホール)の様に使ってしまいたくなる衝動を抑える。
その顔をもっと汚してしまいたい。ナカに挿れて蹂躙したい。舌で擽られて甘く鳴いていた箇所を滅茶苦茶に擦ってやりたい。
童貞になんて拷問しやがる、と思いつつそもそもコイツはオレが童貞だと思っていないのだろう、と真一郎は考え至る。まさか佐野真一郎が童貞だなんて誰が思うか。
 
「あ……んっ♡」
「ッ……!!」
 
大きく口を開けて、武道は真一郎を咥えこんだ。
温かい粘膜は唾液に濡れ、少しキツめに真一郎を締めつけた。少し硬い上顎をゴリゴリと擦りながら柔らかい舌が真一郎を喉奥へと誘う。男らしく真一郎を飲み込んで、どこよりも柔らかい奥の粘膜が射精を促す様に動く。苦しそうに涙を流しているのを見るにえずいている動きなのだろう。相手を苦しめるのは絶対に趣味じゃないのに、その表情がどうしても魅力的に見えた。
 
「ぐ、ぅ……ッ」
 
真一郎を咥えこんだ口を何度か身体ごと前後へと動かし、刺激する。もうダメだと思った瞬間に、一番奥まで飲み込んで吸い付いた。
 
「ハッ、ぁ……」
 
促されるままに腹の中へと精液を注ぎ込んでから、ゆっくりと武道の口から引き抜いた。
コレで萎えてくれれば此処でやめてやれるのに、と思うも涙や真一郎の先走りでドロドロになった顔が、少し虚ろな瞳がいやらしくて、全く萎える気配がなかった。
それでも少しだけ落ち着きはしたため、武道を気遣う余裕ができた。
 
「んっ♡」
 
自分のカウパーが掛かってない額にキスをして、口にキスできないのを残念に思う。別にちょっとゆすいで来てもらってもいいけれど、何だかそれもムードが無くて嫌だった。
 
「大丈夫か?」
「ひゃぃ……♡」
 
クタリと太ももに甘える頭をクシャリと撫でて、ベッドに引き上げてやる。流石にちょっと疲れたらしい。
対面で抱き上げて、背中や尻を撫でるとビクリと前が反応する。触られるのが嫌というワケではなさそうなので、ローブの中へと手を入れて直に肌に触れれば喉奥を子犬の様にヒンヒンと鳴らした。
乳首を弄ってやりたいと思いつつ、力なくしな垂れかかる様が可愛いので大人しく尻を揉む。スーツの時に少しだけ思ったが結構ボリュームのある揉みごたえのある尻だった。
痛くないように加減をして、その弾力と吸い付く様な感触を楽しむ。
男同士は此処に挿れるのだったかと考えながら割れ目に指先を潜り込ませて、準備で仕込んだらしいローションや武道自身の先走りでぬかるんだそこに触れる。縁を指先で焦らす様に擽ると早く挿れてほしいとねだる様に吸い付いた。
 
「挿れるなー」
「ひっ♡♡♡」
 
ツプリと指先を侵入させれば武道は小さく悲鳴を上げて身体をビクつかせた。痛いという様子ではなかったため真一郎は安心してその柔らかいナカを指で探っていく。準備をしたと言っても入り口は狭く、緊張故かキュウキュウと締め付けてくる。指への感触としては可愛らしくいじらしいので良いけれども、此処に性器を突っ込むのはちょっと厳しいと判断する。
 
「んっ、うぅ……♡」
「もうちょっと我慢なー?」
 
尻を揉んでいた片手を頭の方へと持っていき撫でてやりつつ、ナカへ挿れていた指はグリグリと押し広げる様に刺激する。腕の中に閉じ込める様に頭を撫でているせいか浅い位置にあるシコリを時々かすめるたびに自分の首筋に縋りつきながらヒンヒンと鳴き声を漏らすのが愛らしい。
自分を追い詰める相手しか縋る相手がいないのが哀れでそれでもやめる事はできなかった。
このまま一回イカせてやったら少しはこわばりが緩むだろうかと真一郎はナカを広げる動きから攻める動きへと変える。
 
「いっぺんイッとくか……?」
「へ? ぁ♡ あ゛ぁぁあっ♡♡♡」
 
シコリ……前立腺を重点的に押し潰すと武道は分かりやすく悲鳴を上げた。ギュウッと入口が締まり、目を見開いて背を仰け反らせる。そのまま容赦なくゴリゴリと揉み込んで快感を逃がす隙を与えずに追い詰める。
 
「あ゛♡ あ゛ぁぁああっ♡ だめッ♡♡♡ ソレだめぇええっ♡♡♡♡♡」
「ダメじゃねぇよ。イッちまえ?」
「は、ぁ♡ アぁあああああああッ♡♡♡」
 
髪を振り乱して大粒の涙をボロボロと零しながら武道は何とか逃げようとするが真一郎はソレを許さない。早くナカに入りたいのだという欲と、先ほど口でイカされた仕返しの様なものだった。
 
「おらっ、手マンきもちーな? イケよ♡」
「あ゛♡ あ゛ぁぁあああっ♡♡」
 
指先一つでこんなにも乱れる武道が可愛くて、もっと奥までナカを暴いて、この快楽に弱い箇所を雁首でゴリゴリと擦ってやりたいと狂暴な欲が頭を支配する。ベッドに押し倒して、この狭くて小さなアナに真一郎の剛直をブチ込んでやりたい。柔らかな肉が壊れるくらい腰を振って、元の形に戻れなくしてやりたい。
 
「あ、ぁ……♡」
「おー、ちゃんと出たな♡」
 
ビュクリと押し出される様に武道の陰茎から白濁が漏れる。上手くナカイキをさせられた様で少しだけ支配欲が満たされる。
入口もキュウキュウと締め付けてはくるがだんだんと弛緩してきたのか最初程のキツさは無くなっていた。そこからまた甘く鳴く武道の頭を撫でながら指を増やし、前立腺を虐め、奥を開拓し、真一郎が入る準備をしていく。
 
「は、かわいー」
「ぁ♡ は、ぁ♡♡♡」
 
腕の中でくたくたになっているのを良いことに真一郎は武道を開拓していく。
元々逃げる気は無いことは分かっているけれども、力なくされるがままの武道を腕に閉じ込める。男がトロトロになって涙と涎を垂らしている様を可愛く思うなんて思っていもいなかった。
指を増やし、ローションをナカが柔らかく広がるまで攪拌する。仕込んでいた量が多いのかナカで体液が分泌されているのか乾くことも無く縁から泡立って漏れ出ていた。
頃合いを見て引き抜いて、真一郎はドロドロになった指を武道に見せつけた。
 
「準備万端だなぁ?」
「ぁ……♡」
 
自分の尻がどうなってしまっているのか、その指を見て武道は想像がついたのだろう。期待と羞恥が一緒くたになった困り顔に大粒の涙がと溢れてくる。
うりゅうりゅと蕩ける目に触れない様にその涙だけを舐めとると少しだけしょっぱい味がした。こんなにもキラキラ輝く飴玉みたいな瞳なのに甘くないなんて不思議だと、色惚けした頭が直感的に考える。
もう自分のモノを咥えた口だとかも考えられなくなり、再び抱き上げながらキスをする。舌を絡ませながら、下の口に自身の怒張を擦りつけると武道はビクリと身体を震わせた。それでもしっかりと膝を立ててサポートするのは既に抱かれる覚悟が決まっているからだろう。
 
鈴口を入り口にキスでもするように何度か触れ合わせ、入って良いかお伺いを立てる。その度にきゅんきゅんと吸い付く様に収縮して、入ってきてほしいと武道の身体がねだった。
 
「良いか?」
「は、ぃ♡♡♡」
 
泣いているが拒絶や嫌悪の涙ではないのがすぐに分かる蕩けた声だった。その甘い声が、発情した表情が、全てが真一郎を興奮させた。
 
「ッ……!」
 
視覚、聴覚からの刺激がゾクゾクと背筋を伝い、真一郎の中心へと信号を送る。ビキリとそそり立つモノが強く反応して射精してしまいたくなる。ソレを何とか我慢して、真一郎は武道のナカへとその剛直をブチ込んだ。
 
「ひっ♡♡♡ あ゛っぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁああっっ♡♡♡♡♡♡」
 
もはや悲鳴以外の何でもない嬌声が部屋に響く。
安いビジネスホテルなら周りに迷惑だっただろうと思い、このエロい声が他の誰かに聞かれない良いホテルであって良かったと安心する。付き合っているワケでもないのに謎の独占欲の様なものがむずむずと湧いて、ハジメテの相手に童貞が分不相応な感情を抱いていると内心自嘲する。
しかし、ソレだけではないのだとアホになった頭が必死に否定する。自分は武道を好きだからこんな感情を抱くのだと。愚かな獣欲が暴走しているだけではない情が存在するのだと必死に言い訳をする。
 
「あ゛っ♡ あ゛ぁッ♡♡」
「武道っ♡ 武、道ッ♡ 好きッ♡ 好きだッ♡♡♡」
「あ゛ッ、お♡ オレッ♡ もぉ♡♡ しゅきっ♡♡♡ しゅきれしゅっ♡♡♡♡♡」
 
理性の無い動物の様に腰を振りたくる。その度にドチュドチュと濡れた音が響いて耳を犯されている様だった。
武道は真一郎に縋る様に抱き着いて真一郎に合わせて腰を振る。泣いて、嬌声を上げて、何度かナカイキしたのか腰や首を仰け反らせてもリズミカルなその動きだけは止めずに奉仕をする。
その懸命ないじらしさがますます真一郎を興奮させ、その怒張がビクリと更に張り詰めた。
 
「射精すぞッ♡♡♡」
「きてっ♡♡♡ ナカにっ♡ 真一郎くんのせーえきっ♡ らしてくらしゃぃぃ♡♡♡」
「おらっ♡ 孕めっ♡♡ 淫乱まんこナカ出しされて孕めッ♡♡♡」
「あっ♡ あぅっ♡♡♡ あ゛ぁぁぁあああんっ♡♡♡」
 
ぎゅうっと抱きしめてその最奥にビュルビュルと射精する。
二発目だと言うのに勢いの衰えない量が出るがこれだけ興奮していればそうだろうなと真一郎は出しながら納得する。射精を終えてフーフーと呼吸を荒げながら腕の中で息も絶え絶えにか細い声を漏らす武道の様子を見る。
ナカに出されて気を遣ったのか、だらしなく半開きになった口から涎を垂らしながら焦点の合わない目でフワフワと余韻に浸っている。そのテラテラと光る肉厚な唇がセクシーでパクリと食べてしまう。
少し朦朧としつつもキスをされている事は分かるのか武道はそのキスに答えようと舌を差し出した。そんな可愛い反応に出したばかりなのに真一郎の猛りがビクリと反応して硬度を復活させる。
差し出された舌を吸って甘噛みして散々に嬲る度に武道のナカがキュウキュウと真一郎を締め付けた。これは永遠に終わらないな、と思っていると嬲っていた舌を引き抜かれて身体を押された。
思ってもいなかった武道の行動に真一郎はすぐに反応できずに後ろへと倒れ込む。
 
「おぉっ?」
 
流石に嫌がられたのかと武道を見ればそうではないらしく、もはや羽織っているだけだったローブを脱ぎ捨てていた。
 
「オレばっか♡ 気持ち良くさせられないですッ♡」
「んぉッ♡♡♡」
 
歯を食いしばって腰を仰け反らせながら武道が腰を振り出す。
 
「っ♡ っ♡ っ♡ っ♡」
 
ぎゅうっと真一郎を締め付けながら、自信の肉筒がその剛直に嬲られつつも懸命にご奉仕腰振りをする。相手にナカを暴かれるのではない、自分の肉を使った献身的な腰振りが自身を追い詰める。自身の絶頂ではなく相手の快楽を優先しているハズなのに、肉棒を満遍なく舐めしゃぶるはしたない肉アナがどんどん快楽を蓄積していく。
触られることも無い武道の陰茎がプルプルと跳ねて先走りを漏らしていた。
 
目の前で薄ピンクに上気した白い肌が揺れている。
汗に濡れた艶やかな黒髪が乱れて、とろりと潤んだ瞳が欲情を隠しもせずに露わにしていた。
 
「……っ♡ んぅ…♡」
 
ズップリと真一郎を咥えこんで、声すら我慢しながら懸命に奉仕する年下の青年。しかし、本人もかなりつらいのか吐息の中に甘い呻きが混ざっていた。
目の前に広がるあまりに淫靡な光景に真一郎は眩暈がしそうだった。
 
自分では動かないで相手に奉仕させる状況に少しだけ冷静になって、目の前の青年が武臣の指示でこの行為をしている事を思い出す。
好きだ好きだと睦言を囁いてたくさんキスをしたが、幼馴染の差し金だったことを思い出すと少しだけ腹が立つ。アレさえいなければこんな酷い状況で武道を抱くことも無かったハズなのにという思いと、アレがいなければ武道と会うこともセックスすることも無かっただろうという考えがグルグルと頭を巡った。
そんな気が散った真一郎に気付いたのか、武道はますます腰振りを激しくして真一郎に奉仕する。
 
流石にセックス中に他の男の事を考えるのは良くないと思い直し真一郎は目の間の武道に集中する。
武道のご奉仕腰振りにタイミングを合わせてピストンを再開すればよりナカを嬲られたせいか悲鳴を上げて武道は仰け反った。触れても無いのに真っ赤に充血してピンと勃った乳首が白い肌の上でプルンと揺れた。最初に触れたいと思った時にそういえば触れる事が出来なかったと思い真一郎はそこへ手を伸ばす。
 
まだまだ堪能しきれていないのだと再確認して、真一郎は一度幼馴染の存在は忘れることにした。
 
どんな理由で出会ったのだとしても、こうしてキスをして肌を合わせたのだ。自分たちは思い合っているのだと互いを求めあう行為に没頭した。
 
 
・・・
 
 
人生で一番熱い夜を過ごしたと思った。
セックスが初めてだったというのもあるし、他人に受け入れられるのはこんなにも心地が良いことなのだと知った。今まで世間体程度にしか童貞を気にしていなかったが、誰かに愛されるという経験は確かに素晴らしいものなのだと思った。
 
そんな最高の気持ちから、翌朝、真一郎はどん底へと落とされた。
サインをした契約書と共に消えた男に唖然とする。書類はセックスをする前にしっかりと読み込んだのでサインをしたことには何の問題も無い。しかし、真一郎としてはもう少しイチャついて、お互いの事を知って、連絡先も交換したいと思っていたのだ。
その目論見は起きた瞬間に崩れ去った。
 
どうして、と疑問に思った瞬間に寝起きすぐでもそこそこに優秀な自分の頭が答えを出す。
昨夜の関係は“枕営業”だったじゃないか、と。
 
確かに、最初にちょっとしたからかいのつもりで意地悪をしたのは真一郎だった。
しかし、武道に誘われ、のこのこと付いて行って、キスをして、肌を重ねた時の武道の表情や行動は嘘ではなかったと真一郎は思う。童貞の幻想だと冷静に批判する理性と、今まで多くの人間を見てきた仕事人としての自負、そしてこれからもっとお互いを知って仲良くなりたかったという欲が頭の中をぐるぐると駆け巡った。
しかし、真一郎が何を考えようとも既に武道はおらず、連絡先も交換していない。
 
武臣の部下なのだからアレに連絡を取ればいい、と携帯端末を取り出して電話を掛ける。しばらくコールが鳴って、結局武臣が出ることは無かった。
まだそこそこに早い時間であるので仕方ないと思いつつ、もしこのまま武臣が蒸発したらもう二度と武道と会う手段が絶たれてしまうのではないかという不安が付きまとう。武臣のそういうダメな所を真一郎は可愛らしく思っていたが、もしそうなったら今回ばかりは許すことができない。そも、枕営業だって恐らくは武臣の入れ知恵なのだろうと想像がつく。
 
やらかしたことの責任は取ってもらおうと、真一郎は同じく黒龍だった部下たちにメールを入れた。