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未知との遭遇

 
花愛ワンライ③
お題【涙】【光】

・・・ 
 

いつも通りの日常だった。
ソレが非日常へと変わるのは一瞬で、花垣武道は空を見上げてあんぐりと口を開けた。間抜け面だと笑ってくれる友人は今はいない。何故こんな時に一人なのかという絶望と、他の誰かが巻き込まれなくて良かったという安堵が胸に渦巻いた。
見上げた先、青い空があるハズのそこには銀色の円盤が浮かんでいた。こんな巨大な飛行物が何故こんな低い場所を飛んでいるのか。答えは簡単だった。その飛行物は武道にしか見えていないらしい。
昼間の住宅街で、ソレを認識しているのは武道だけ。近所の良く吠えると評判の犬すらその異様な物体に反応してはいない。
悲鳴を上げる前に、眩い光に包まれ、武道は意識を失った。
 
・・・
 
「ん、ぁ……」

暖かい温水から浮上したらこんな心地だろうか。ぼんやりとした心地よい倦怠感が身体を支配する中、二度寝したいという欲望が胸を支配する。ソレを阻止したのは眠りにつく前に自分がいたハズの場所を思い出したからだった。

「え⁉」

ガバリと立派ではなくとも無いことはない腹筋で武道は起き上がる。
自分は外にいたはずだと考え、同時に銀色のヤバそうな何かから光を照射されたと思い出す。

「キャトルミューティレーション⁉」

クラスメイトの女子の弟に何故か熱く語られた怪奇現象を思い出して叫ぶ。かの有名な牛がユーフォーにクルクルと攫われる絵面が頭の中に繰り広げられた。
自分は宇宙人に攫われてしまったのか、と。

「正しくはアブダブションなー。キャトルは血を抜かれた動物が見つかることに言うんだぜ」
「へー、そうなんですね……。って誰⁉」

グルグルと意味が分からない状況に頭を悩ませていた所に理解できる言語で話しかけられ、武道は思わずその言葉に反応し、驚く。こんな状況で話しかけてくるなどおかしいに決まっている。

「おー、おはよ。いやー、急に悪ぃな。アンタの事攫わしてもらった異星人……えーとエイリアンってヤツだよ」
「は⁉」

声の発される方へと顔を向けるとそこにヒトはいなかった。意味が分からずにどこから声が聞こえているのかキョロキョロと辺りを見回す。分かったことは自分が寝かされているのは物語のお姫様が寝かされている様な天蓋付きのふわふわベッドであり、部屋もそのベッドにふさわしいファンシーでピンクなふわふわとヒラヒラにまみれた少女趣味な空間であるという事だった。
クラスメイトの可愛らしい女子ならともかくとして、脱色した金髪をリーゼントにしてボンタンを履いた男がいていい部屋ではなよかった。

「何この部屋ぁ⁉」
「あれ、気に入らなかったか? 地球の資料でお姫様の部屋ってヤツを用意したんだけど」
「俺はお姫様じゃないですよ⁉」

パニック気味に謎の声と会話する。エイリアンに攫われると手術台に乗せられて妙な機械を埋め込まれると聞いていた。ソレが何故、お姫様イメージの部屋で寝かされているのか。

「あー、えっとな。お前はこれからお姫様になるんだよ」
「はぁぁぁああああ!?」

本日何度目の絶叫だったか。噛み合ってはいても意味が分からない回答ばかりの会話に武道は泣きそうになる。
なんだお姫様になる、って。

「まずお前を攫った理由からなんだがな、俺らの星の成人の儀なんだ」
「プレデター⁉ 俺がエイリアンだった⁉」
「まぁ、聞いてくれよ。殺すつもりなんてねぇから」

あまりにもあんまりな展開を想像して今度こそ涙を流した武道だったがどこからか現れた肌触りの良いハンカチがその濡れた頬を拭った。どうやら宇宙人は透明化できるらしい。本格的にプレデターでは無いかと武道は滂沱の涙を流す。

「もう泣くなってぇ。それでな、その成人の儀で俺たちは異星から嫁を迎え入れなきゃいけねぇんだよ」
「は?」
「えーと、地球で言う単体生殖? ってヤツの生き物なんだよ俺たち。だた、血が濃くなりすぎてもいけねぇのよ。んで、俺たちは他の生き物孕ませることもできるんだけど、周辺の星荒らすワケにもいかねぇから遠い未開の星から問題ない程度に異星人を攫ってくるんだ」
「野蛮だ……社会の先生が語ってたコロンブスぐらい野蛮だ…」
「そう言うなって」

ドン引きしました、と全力で表情に出す武道に宇宙人は困ったような声を出すが本当に困っているのは自分だと武道は文句を言いたい。

「てか俺男だから子どもなんて作れてないし」
「あー、まぁ遺伝情報さえあればいいし胎はどうせ作り変えるから」
「ひぇ……」

いっそ妙な機会を埋め込まれた方がマシだと本日何度目かの絶望を武道は味わう。宇宙人の苗床になって死ぬなんて恐ろしすぎて何も言えない。

「ホント悪ぃなって思うんだよ。でもさ、俺も星の王族の第一王子だからお前みたいな善人の塊みたいなキラキラの精神持ってる奴の遺伝子が欲しいんだよぉ」

武道に負けず劣らずの情けない困った声を宇宙人は出す。しかし、ソレに同情する前に武道は聞き捨てならない単語を拾う。

「王子⁉」
「あぁ、そうだ。+?$'"!`@星第一王子繧キ繝ウ繧、繝√Ο繧ヲって言うんだ」
「何て?」

全く聞き取れない言葉に武道は自分の英語のテストの点数を思い出す。英語ができたところで異星語が分かるわけもないが武道は気付かない。

「あー、うーん? えっとな、お前ら風に言うと真一郎って感じかな」
「シンイチローくん」
「ん、そうだ。安心しろ。苗床なんて扱いはしない。正真正銘、お姫様扱いしてやるから!」
「ひぇ……」

ぐっ、と手を握られる感触がした。透明化していて見えないがすぐそこに真一郎がいて、その息遣いすら武道には分かる。確かに生きている生物の感触に一瞬だけ落ち着きかけるが現状は何も変わっていない。

「無理ですー! 帰してくださいー‼」
「悪いな、無理なんだ」

ピ、と音がしてファンシーな壁紙が透明化して外の景色が映し出された。真っ暗な闇のずっと奥にわずかな光が見えるような見えないような妙な景色だった。

「もうお前の棲んでいた太陽系からは遠く離れちまった。俺の星に行くしか燃料はねぇし、俺はお前を返す気はない」
「ひ、ぁ……」

傍にあった息遣いが急接近する。
唇を奪われたのだと気付いて瞠目し、理解する。
人間の自分では敵わない生き物に惚れられてしまったのだ、と。
割り開かれ、口内に侵入する恐らく舌のような器官にゾワリと背筋が凍る様な気持ちになる。
もう諦めるしかないのだと武道はゆっくりと目を瞑った。どうせもう外に恒星の明かりなどないのだから。
 


 


バッドエンド風ですが、このあと弊たけみっちはお姫様扱いに胡坐をかき始めますし案外幸せに生きます。苗床には苗床ですが。まぁ生殖ありきの結婚なんてそんなもんですね。

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コメント: 1
  • #1

    tst (木曜日, 21 9月 2023 18:40)

    tst