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孕みたがりの本能と幸せについて

 

死ぬ運命にあった元カノを救う時間の旅路が終わり、花垣武道は幾多のやり直しを経て最良の結果をつかみ取った。
そうして残ったのは自分には勿体ないと思うくらい素晴らしい友人たちの幸せ。そして、本来なら12年前に失うハズだった恋人。
そして、ボロアパートに住む冴えないレンタルショップ店長の自分だった。

オメガである自分が正規雇用をされて、しかも店長まで上り詰めたのならソレは十分に幸せなことだと分かっている。
本来ならバイトで終わるハズだったし、オメガが職どころか役職まで得ている事の方が珍しい。世間では男女平等やら第二性差別の撤廃などと言われているが現実問題として3カ月に1週間のペースで発情期が起きて働けなくなる生物が責任ある立場に就くことは難しいのだ。
ソレでも武道がそこまで上り詰めたのは本人の人柄により学生時代から積み上げたコネクション、そして支えてくれるパートナーの存在によるものだった。それは間違いなく本人の実力と言って差支えの無いものだったが、武道本人は自分の価値をいまだ低く見積もり助けてくれる周りの存在に平身低頭し苦悩することが多い。

発情期を迎える直前、武道は副店長に店を預けて自身はアルファの恋人である橘日向のアパートへ訪れるのがいつもの流れだった。そして彼女のベットで毛布にくるまっている時に、武道は特に思い悩む。自分は周りと釣り合っていないのではないか、と。
勿論、実際に周りにそんなことを零したことは無く、もしもソレを口にしたのなら全員から強い否定の言葉が返ってくるだろうことも分かっている。

……

そんなことを考えながらも刻一刻と発情期は迫ってきている。あと数時間もしないうちにどうせ何も考えられなくなる、と武道は溜息をついた。
今以上を望むのは贅沢であり、むしろ今以上の生活など存在しない。不安はあっても不満は無いのだ。

ならば、この焦燥感をどうにかするにはどうすればいいのか。

ギュっと毛布を握ればふんわりと日向のフェロモンが香る。その瞬間、ズクンと下腹部が脈打った。場違いなソレに心と体の乖離を感じながらもそういう身体なのだと武道は諦める。

「ふ……ぅ」

吐く息すら熱く、火照る身体の熱は籠るばかりで不便な身体だとぼんやりと思う。幸せなハズなのに、何かが足りない気がする。
足りないパーツを探すように、武道はフラリと立ち上がった。覚束ない足取りで事前に用意された日向の服を籠から取り出して抱き締める。女の子に洗っていない服を用意させてしまうのが申し訳ないけれども、発情期のオメガはコレが無いと落ち着かないのだと自分に言い訳をする。心の中で謝罪をしてから染み付いたフェロモンをスゥと吸い込んだ。
コレを用意する度に少し恥ずかしそうに日向は照れて、ソレが可愛らしいと思いつつもその感想はあまりにもヘンタイ臭いと言葉にするのは自重した。

抱き締めた服をベッドの上へと運び、フェロモンの量ごとに円形に並べる。何度か籠とベッドを行き来して、ベッドの上に日向の服が重ねられていく。真ん中に寝転がると日向のフェロモンに包まれる様に武道は無心で服を配置していく。
時々無心になりきれず、コレはオメガの本能による巣作りという行動であって決して自分のヘンタイ的欲求によるものではないのだと頭の片隅で言い訳をすることも忘れない。

「ふ、ぅ……

そうして出来た巣に武道は潜り込んでうっとりと呼吸をする。
肺と鼻孔いっぱいに番の匂いとフェロモンを吸い込み、ぐったりと力を抜く。ソワソワと落ち着かない感じは鳴りを潜めるが、代わりにどうしようもない疼きが身体を支配する。

「ッ、はァ……

特にフェロモンの強い服に縋りつきながら熱い息を吐く。ドクドクと自分の心臓の鼓動が聞こえる。
耳が、首筋が、肌の全てが、触れる感触を過敏に脳へと伝える。
血液が廻り、敏感な箇所が硬く尖りだす。脈打つ胎の中がドロリと濡れる。この場にいない番を求めて身体が交接の準備をしていた。

「ひなぁ……

疼きに身を任せて指や玩具で胎を穿ってしまおうかという誘惑にも駆られるがそれでは満足できないことを武道は嫌と言うほど分かっていた。
既に武道は番の熱いソレで奥まで暴かれなければ満足できない身体だった。下手に触れて満足できずに欲を持て余すくらいならいっそ何もせずに日向の帰りを待っていた方がマシだとぼんやりと考える。

「早く、帰ってきて……



・・・


橘日向は帰路を急いでいた。
夢だった看護師になって数年。給与は悪くはないが夜勤も多く、あまり番に構ってあげられないが発情期だけは話が別だった。
3カ月に1度の番の発情期のために直前まで仕事を詰めて、制度として休めるにしても周りに頭を下げ、勝ち取った1週間の休みの始まりの直前だった。帰ろうと支度を始めた瞬間に、空気を読めない急患が入り帰りが遅れてしまった。その場にいてしまえば例え家に番を残していようと使える者は全員が使われる職場だ。

周りに頭を下げることすら日向にとっては惚気の様なものだが、世界で一番愛しい番を寂しい状態で待たせてしまうことは悩みどころだった。
看護師は長年の夢だったが現実の実情を考えるともしかしたら大学の時についでで取った教員免許を使って公務員になることを考えてもいいのかもしれない、と小走り気味に歩きながら考える。
番の武道はサービス業なので土日は休めないがそれでも夜は遅くなっても一緒にいられるし、何よりこういった緊急事態が少ない。平日休みを被らせることは武道が店長をやっているため比較的簡単で、その方が一緒にいられる時間は多くなると就職を考えた時に二人で決めたがもう一度再考する余地があるかもしれない。

そんなことを考えていれば家にはすぐに着いて、日向にしか感じられない番のフェロモンが薄っすらと漂っていた。

「ただいまー」

掛ける声に応えが無いのはこの時期のいつもの事だった。それどころではない状況になっているのだろう。移動中に軽く夕飯を食べて、数日分の買い物は済ませてきた。足りない分は食材宅配サービスがギリギリで来る予定なので心配はいらないハズだ。
冷蔵庫に食材を詰め込んで、コートやジャケットを壁に掛ける。お風呂に入ってしまいたい気持ちもあるけれども、このまま寝室に入った方が武道が喜ぶことを日向は分かっていた。
最低限の支度を終えて、番の待つ寝室へと足を向かわせる。家に入ってから強くなっていたフェロモンが更に強くなった。

「ただいま、タケミチくん」
「ふぇ? ひなぁ?」
「うん、ヒナだよ。タケミチくんの番」
「ヒナぁ……っ」

ベットに巣を作り、その中でくったりとしている武道がもぞもぞと日向を見て首を上げる。興奮し過ぎて身体に力が入らず走り寄ることもできないが、その表情は蕩けきり番を求めていた。
その様がとても可愛く、愛しく、日向はあえてゆっくりとベットに近付いた。

「巣、上手に作れたね」
「っ♡ っ♡」

ベッドのふちに腰かけて、日向は焦らすように乱れたシーツと自分の衣服で出来た巣を撫でる。フーフーと荒い息をして、武道はその指先を見つめた。日向の細い指を、巣などではなく自身に向けてほしいとその瞳で懇願する。

「入って、いいかな?」
「っ♡♡♡」

息も絶え絶えで武道は首肯した。もう言葉を話すのもキツいらしい。
スプリングの軋む音を立てて、日向は自身の服を膝で踏みつぶす様にゆっくりと武道に近寄る。興奮したオメガのフェロモンと自身の服に染み付いたアルファのフェロモンがムワリと香った。
自身はブラウスを着たまま、素肌を晒す武道に手を伸ばす。

「タケミチくん、すっごく興奮してるね。ヒナに犯されたくて仕方ないんだ?」
「ひなっ♡ ひなぁ♡♡♡ 欲しいっ♡♡♡ ひなのおちんちんオレに挿れてぇ♡♡♡」
「うん。でも、ちょっとヒナにタケミチくんを愛させてね」
「ひっ、んぁああっ♡♡♡」

うつぶせになり無防備な武道の背中に日向の指先が触れる。ツゥ、と熟れた肌をなぞられるだけで武道はあられもない悲鳴を上げた。
番のフェロモンで作った巣で散々焦らしたその身体は微小な刺激でも簡単に絶頂をむかえてしまう。ゾクゾクとした快感が背筋を伝い、ビクビクと筋肉が痙攣した。

「タケミチくんのえっち♡」
「ひなっ♡ ひなっ♡ もっと♡♡ もっとぉ♡♡♡♡♡」
「かわいい♡」

自力で動かない身体をひっくり返して体重が掛からない程度に押し倒し、ボロボロと涙を零す目許や真っ赤に染まった頬にキスを落とす。
背中に回された手が日向の服を掴んだ。そのまま力任せに抱きしめたいのを我慢して武道は仕草だけで唇へのキスを強請る。オメガとアルファと言えど武道と日向は男と女だ。腕力を行使して日向を傷つける様なことだけはしたくなかった。

「んっ♡ んむぅっ♡♡♡」

与えられるがままにキスを貪り、柔らかい唇とぬるつく舌の感触を享受する。服越しに日向の柔らかい胸を押し付けられてその圧迫感に安心する。

「ひなっ、服やだぁ」
「んっ、そうだね。ヒナも脱ぐよ」

少し身体を離して、見せつける様にブラウスのボタンをはずしていく。淡い色のブラウスからレースの下着に彩られた乳白色の肌が晒される。その様が綺麗で武道はうっとりとストリップを眺めた。
ブラウスにスカート、そして下着がゆっくりと脱がされ日向の胸と陰茎が曝け出された。
興奮して充血し、屹立したソレにタケミチの胎がドクリと脈打つ。

「おまたせ、タケミチくん」
「うんっ♡」

武道の腹に陰茎を押し付ける様に日向は跨り、身体を逸らして見せつける様に軽く扱く。

「タケミチくんが可愛くてヒナのおちんちんこんなになっちゃったんだよ?」
「ソレっ♡ 欲しいっ♡ 早くぅひなぁ♡♡♡」
「うん、まずは指で慣らしてからね」

涙に濡れる頬をまだ汚れていない方の手で撫でてから、日向は一度武道の上からどいてベットに正座する。無防備に力の抜けた脚を割り開いて、すでに何度か射精してしまって濡れた陰茎とドロリと愛液を分泌する後孔を膝に乗せる。
自身の恥ずかしい箇所を眼前に晒されて武道はまたドクリとその陰茎から白濁を漏らす。

「タケミチくん元気だねぇ」
「ひぁん♡♡♡」

恥ずかしいのに気持ちが良くて、イイ子イイ子と亀頭を撫でられると武道は甘い悲鳴を上げた。
そのまま陰茎を可愛がられながら、もう一方の手がその下の陰嚢をコロコロとも揉み解す。何度か射精してしまっているのにまだ中に詰まっているらしいソレの柔らかな感触をふにふにと楽しんでから、ツツツと指先を更に下になぞる。
会陰を通り過ぎて触れても無いのにトロトロになっている入り口に日向は笑みを深めた。

「準備万端だね♡」
「っ♡ っ♡」

焦らされ過ぎて息も絶え絶えの武道がまたコクコクと首肯した。そこに番の雄が欲しいのだと全身が主張する。涙とよだれでぐちゃぐちゃの顔が、ぴんと主張する朱鷺色の乳首が、時折我慢しきれずに揺れる腰が、日向に犯されたいのだと悲鳴を上げていた。

「可愛い♡」
「あ゛ぁぁあああっ♡♡♡♡♡」

ツプリと細い指先がナカに入った瞬間に、武道は背筋を仰け反らせてその陰茎からプシャリと精液を溢れさせた。日向は武道のそんな様子に愛おしそうに笑みを深めて入口の淵をクルクルと刺激した。

「ふふ、イッちゃったね♡」
「ふっ♡ はっ♡♡ ぁ、あ……♡♡♡」

十分に柔らかくなっていることを確認して更に指を増やすと武道は切なそうに息を荒げつつも、もっと欲しいと胎の中をヒクつかせて指を奥へ奥へと招き入れる。

「ナカ、嬉しそうだね。タケミチくんがえっちでヒナすっごく嬉しいよ……♡」
「あっ♡♡ ひぁっ♡♡♡ あぁぁ……♡♡♡♡♡」

前立腺を人差し指でクニクニと刺激しつつも中指で奥の方を拓くようにかき混ぜると武道は幸せそうに蕩けた表情で甘い声を上げる。その何もかもが日向を興奮させた。

「は、ぁ♡ すごいね、タケミチくん。ヒナの子孕みたい、って子宮こんなに降りてきちゃってる♡」
「っ♡♡♡♡♡♡」

陰茎を愛でていた左手を一度離し、武道の腹の表面を撫でる。元ヤンやしくしっかりとした腹筋の上に柔らかな脂肪が年相応に乗っているにも関わらず、まるで本当に触れられているかのように武道はその感触をナカに想像してしまい精液を迸らせる。パタパタと弾けたソレが日向の手を汚した。

「タケミチくん巣作り上手だもんね? ヒナのフェロモンでトロットロになっていい子でヒナのこと待ってられるもんね?」
「うんっ♡ ヒナの匂い好きっ♡♡ ヒナにいっぱい種付けされたくて赤ちゃん作るお部屋準備したのっ♡♡♡」
「うん♡ とってもえらいよ♡」
「あぁんっ♡♡♡」

十分にほぐれたナカから指を引き抜くと、蕩けた入り口が番の雄を強請ってヒクつく。その様を見つめつつも日向は事前に用意していたゴムの封を切る。はち切れんばかりに膨れた怒張をあまり刺激しない様にしつつゴムを嵌めつつ、片手で武道の腹を指先で刺激する。
ゴムを付ける時、理性の切れた武道はいつもナマでしてほしい孕まされたいと強請るため、日向は他に意識させる必要があった。もちろん、オメガのためのアフターピルを処方してもらってはいるので発情期のうちは薬を飲むことになるが、できることは全てしたいと日向は考えていた。
愛しい番のえっちなおねだりに心が屈することも何度かあったけれど、打てる手は全て打ちたいと日向は考えていた。
どんなに発情期の武道が孕みたいのだと懇願しようと、現段階で武道を妊娠させるつもりは日向には無かった。いつかは子どもを授かって家族になりたいと思っているが、今の武道がその努力によって得た地位を本能的な衝動だけで滅茶苦茶にはしたくない。
巣を作るという行動は発情期の不安な心を番の匂いで落ち着かせるためのものだというのが定説ではあるが、ソレと同時に排卵を促すものであるのではないかと言う説もある。
発情期とはすなわち排卵期であるが、発情期自体は卵胞期から始まる。卵胞期の最後に巣を作って番のために胎を準備しているのではないか、と。そのため、巣に用いたフェロモンとは違うアルファに抱かれても着床率は低いのではないか、とも言われているが確認するにはそこそこ非人道的な実験が必要になるため解明はされていない。
とにもかくにも、武道が本能で孕みたがっているのを日向の理性だけで現実的な問題によって待ったをかけているというのが実情だった。

「挿れるね……
「う、んっ♡♡♡ あっあぁあああああっ♡♡♡♡♡♡」

ゆっくりとぬかるみに怒張を沈めるとその圧迫感に武道はもう何度目になるのかも分からない絶頂をした。ずっと欲しくて焦らされていた身体に番の雄を受け入れ、いっそ暴力的ですらある快楽と多幸感に悲鳴をあげる。
興奮で何も分からなくなりつつある中で、それでも日向の身体ではなくシーツを掴んで身体を仰け反らせるのは武道の男としての矜持であり優しさだった。どんなに理性を無くして乱れても発情期の武道が日向を傷つけたことは無かった。

「は、ぁ♡ すっごく、気持ち良いよ♡」
「ひなっ♡♡ ひなぁっ♡♡♡」
「あー……可愛い♡」

身体を震わせ、過ぎた快感によって涙とよだれ、鼻水を垂らしながらよがる武道を日向は据わった目で見下ろす。このまま本能だけに従って武道を滅茶苦茶に犯しつくしてしまいたい衝動に駆られるが日向は一度呼吸を整える。
何よりも大切なのは武道を気持ちよくすることだ、と。

「聞こえないかもしれないけれど、動くね」
「あんっ♡♡♡」

最初は揺する様に、小刻みに優しくナカを刺激する。案外浅い場所にある前立腺はあまり刺激されないがその緩やかな快楽に武道はリラックスしたように甘い声を響かせた。子犬か仔猫が甘える様なソレに興奮していた日向の心も少しだけ穏やかになる。

「んっ♡ んっ♡」

愛しい番の可愛らしい姿を慈愛に溢れた瞳で見つめつつ日向はだんだんと腰の抽挿を大きくしていく。

「あっ♡♡♡ あぁんっ♡♡♡♡♡」

裏筋で軽く擦っていただけの前立腺を雁首で抉る様に突くようになる頃にはまた余裕を無くし、一突きごとに陰茎から精液を溢れさせた。悲鳴の様な嬌声を聴きながらゴリゴリとナカ全体を刺激する。淵が淫液で泡立ち、浮いた尻から背中まで伝いシーツに水溜まりを作った。

「あああぁっ♡♡ ひなっ♡♡♡ ひなぁ♡♡♡♡♡」
「タケミチくんっ♡ 好きッ♡ かわいいっ♡♡ ヒナのっ、ヒナのタケミチくん♡♡♡」

互いの名前を呼びながら激しく交わり、淫猥な水音が響く部屋に熱気が籠る。互いの境目が分からなくなる程ドロドロに蕩けて、一つになってしまいたいと非現実的な事が頭によぎる頃、二人は限界を迎えた。

「来ちゃ♡ しゅごいのッ♡♡♡ きちゃぁあああああっ♡♡♡♡♡♡」
「あっ♡ あぁっ♡♡ イクっ♡♡♡」

胎の中の限界まで奥に腰を押し付けてドクドクと日向は射精する。ゴム越しにその脈を感じ武道は搾り取る様にナカをヒクつかせた。

「ひなぁ♡ ひな、好き♡♡♡」
「んっ♡ ヒナもタケミチくんが大好きだよ♡」

少し背伸びをして日向は武道にキスをした。













卍 卍 卍


おまけ


ある日の元東卍メンバーの飲み会にて。

「タケミっちってさぁヒナちゃんと番ってんじゃん、アッチの方ってどうなん?」
「え~、フツーっスよぅ」

酔っぱらった万次郎に絡まれて同じく酔っぱらった武道はソレがセクハラだとも思わずにへらへらと笑いながら答える。
話題が話題なため他のメンバーが止めようかと迷っているうちに二人の会話は進んでいく。

「オメガの発情期ってヤバいらしいじゃん? お前ヒナちゃん潰してねぇ??」
「してませんよ!」

不良時代の武道のファイトスタイルを思い出して元東卍メンバーは苦い顔をした。武道は喧嘩のセンスや強い腕力、脚力は持っていなかった。その代わりにどんなにボコボコにされてもめげずに立ち上がるガッツと耐久力を以て持久戦をしていた。
ソレが今も発揮される様なことはほとんど無いが、その持久力がセックスで力を発揮している可能性を考えるとアルファと言えど女の子が相手をするのは厳しいのではないか、と。

「言っときますけど! 俺セックスでヒナに怪我させたことありませんから!!」
「いやぁ? そこは心配してねぇけど、搾り取ってんじゃねぇかな~って思ってさぁ」
「むぅ……。流石に発情期は回数してると思いますけどぉ」
「アルファだって限界があるからな~。流石にヤり過ぎたらチンコ痛くなるし」
「くそぅ、童貞には分からねぇ痛みだ」

非モテを自称し、泣き真似をする男オメガの武道は未だに童貞をネタにしている。セックス自体はしているというのに不思議な奴だと周りはその様子を眺めた。

「基本的にヒナ主導で動いてもらってるんで多分キツくはねぇと思いますけどぉ」
「へ~ヒナちゃん積極的なんだ~!」
「オレだってオレが乗っかって搾り取ったらマズいって分かってますもんー!!」

無邪気に交わされる猥談に興味半分止め処が分からない半分で耳を傾けられる中、武道はグラスを傾けアルコールによる酩酊でぼんやりとしつつも幸せそうに言葉を続けた。

「でも正直、オレ、ヒナに焦らされてどろっどろにされるの好きなんスよねぇ」
「ほほぅ、ヒナちゃんSなの?」
「うーん、かもしれないです? っていうかオレを満足させるために色々と頑張ってくれてるんだと思うんですけど」
「へ~、どんなプレイしてんの?」
「プレイってほどじゃないっスけど、やっぱ体力的に俺の回数稼ぎたいんで本番までに滅茶苦茶イかされますね」

元々酔っぱらっていた武道が本格的に猥談を始めて周囲で聞き耳を立てていたメンバーがシンと静まった。元から話していた総長だけはケラケラと笑いながら続きを促す。

「焦らされるって射精禁止とかじゃねぇんだ~?」
「違いますねぇ。正直前で何度イッても満足できないんでとにかくナカに欲しいって強請るんスけど、前戯で体力削ってもらわなきゃなんで泣いて懇願しても挿れてくれないんですよね~」
「ほほう!」
「マジで焦らされるのも好きなんスけどねぇ。発情期はそこら辺のお遊び全然なんでちょっとつまんないっス」

武道はまたアルコールを口に含み、唇を尖らせて拗ねた様な顔を作る。

「発情期以外もヤッてんだ?」
「そりゃヤりますよぉ。オレたち付き合ってんですから!!」
「発情期と普段で違うプレイしてるって面白ぇな。普段はどんなえっちしてんの?」
「やっぱヒナ主導で焦らされたり変なとこ開発されたりしてるんで面白いっスよ」
「へー、ちなみに変なとこってどこが悦かった?」
「うーん、うつぶせでひたすら背中……腰の辺り指先でツツってされるのが一番好きでしたね! 途中でうっかりシーツにチンコ押し付けちゃってガッチガチの貞操帯つけられてからが本番でした!!」
「何それエロい!」

万次郎はヒーヒー笑いながら話をするが他メンバーは笑えない。オメガだと分かってはいるが東卍時代の武道を知っている者からすると武道は男の中の男だというイメージが強い。よく泣きよく笑い元気で子どもっぽい奴だが誰にも負けないガッツがある。
そんな武道の赤裸々な性生活が淫蕩極まり、しかもドMと言っても差支えの無いレベルのものであるというのは衝撃的なものだった。

「てぇかソレヒナちゃんの趣味?」
「ヒナ、オレにできることは何でもやってみたがりますからね。男としては彼女の夜の要望とか全部叶えてやりたいじゃないっスかぁ」
「ヒーっ、ウケる! タケミっち男前!!」
「本気で嫌だったら逃げれるんスよ。でもソレをあえて全部受けきりたいっていうか」
「タケミっち昔から起き上がりこぼしみてぇだったもんな!」
「えー、そんな風に思ってたんスかぁ!? あ、あえて受けたいといえばこないだ玩具の手錠で拘束されてみました」
「えー、痛くねぇ?」
「いえ、玩具なんで。抜こうと思えばスルって抜けるファーの奴です。ほぼ二連に繋がったシュシュでしたね」
「そんなんあんのか~」

本格的にフェティッシュな猥談を始めた二人に流石にマズいと龍宮寺が待ったをかけた。

「タケミっちそろそろその辺でやめとけ。千冬が死んでる」
「へっ!?」
「相棒がそんなドM野郎だったなんて知りたくなかった……
「ドM野郎って酷い!!」
「なんつーか、まぁ仲間がSMプレイ好きでも俺たちは気にしねぇけどよぉ。居酒屋でソレ以上ディープな話はやめとこうぜ。俺たちがヒナちゃんに怒られる」
「ウっス」

酔っぱらいながらも下っ端根性の染み付いた武道は上機嫌で龍宮寺の言葉を聞いた。
もしやコレも調教の結果なのでは? と邪推しつつも素直で可愛らしい一つ下の男の頭を撫でる。それも嫌がらずにニコニコと撫でられるので元からそういう性分なのかもしれない。

「タケミっち~、ヒナちゃん迎えに来たぜ~」
「マジで!? やったー!」

猥談を始めた辺りでコレはもうダメだな、と世話焼きの三ツ谷が日向に連絡を入れてくれていたらしい。一虎に呼ばれ喜色満面で帰り支度をする様を松野を慰めていた場地にからかわれて武道は子どもっぽい仕草で頬を膨らませた。

そんな幸せそうな光景を眺めながら万次郎は少し眩しそうに目を細めた。

「どうしたマイキー」
「ん~? オメガもいいなぁ、って思ってさ」
「タケミっちはヒナちゃんのだぜ?」
「そじゃなくてさ」

万次郎の武道への執着を知っている龍宮寺は苦い顔をする。

「オレはまぁ当然みたいにアルファだったから、オメガって発情期とかもあるし大変そうだなぁって思ってたわけよ」
「おう」
「でもあの二人見てるとオレ、オメガでも良かったかもなぁ、って。まぁそんなんはアイツ等が周りに言わない苦労を知らないから言えるヤツだけどさ」
……

龍宮寺を安心させる様にヘラヘラと笑いながら万次郎は言葉を続けた。

「オレがオメガだったとしてヒナちゃんに抱いてもらえるわけじゃねぇからまぁたらればだな!」

その言葉に少し困った様に笑い、誤魔化されてやるかと龍宮寺は平静を装う。
万次郎は番のいないアルファだ。武道にも日向にも恋心を抱いてはいないが幸せそうな番を見て思う所があったのだろうと予想はつく。

「お前がオメガとか想像がつかねぇな」
「そ? 案外ケンチンとかと番ってたかもよ?」
「馬鹿野郎。オレはエマ一筋だ」
「ハハッ、それはそうだわ。エマ捨てたら殴る」
「捨てねぇよ。むしろこんな飲み会ばっかやってて捨てられねぇか心配だわ」
「そろそろお開きか~。シンイチロー呼んで~」
「自分で呼べ」


・・・


日向の運転する車の助手席で、ウトウトと微睡みながら武道は幸せに浸る。

何度もタイムリープを繰り返して、何度も誰かの死を見て、己の無力を感じて、最後に辿り着いた世界は自分の知らない常識の蔓延る知らない世界だった。
幸か不幸か、事が起こる前の時間に飛んだのは今思えば幸せなことだったのだろう。
今までの努力は水泡へと帰し、そこでは自分は最弱、劣等種などと呼ばれる性に生まれていて、これはいよいよもうダメかもしれないと絶望もした。
それでも諦めずに、足掻いて。足掻いた先にこの未来をつかみ取った。

「ひなぁ、おれねぇ幸せだよ」
「ん~? 急にどうしたの?」
「ひながいて皆がいるのが嬉しいんだぁ」

頭がフワフワとしたまま武道は言葉を続ける。

「でもね、たまに不安になるんだ」


「だからね、結婚しよ」


「結婚して子ども作って、もっと幸せになろう?」


発情期直前の焦燥感を武道は忘れていなかった。そして、ソレがは発情期の本能的なものと、自身の境遇からくる不安だと分かっていた。
気持ちのいい酩酊に身を任せて、望みが口からこぼれてしまう。

そんな武道の言葉を日向は穏やかな気持ちで聞いていた。


「ふふ、タケミチくんはホント締まらないね。そういうのは夜景の見えるレストランで、こっそり寝室の引き出しに隠してる指輪を差し出して言うのが正解なんだよ?」


「きっと明日には忘れちゃってるかもしれないけど、ヒナ待ってるからね」









終。