· 

女体化したから別れようとした彼女にワカラセられた件

 

幾度となくタイムリープを繰り返し、誰も死なない、殺さない世界を手に入れた武道はまさかこんなしっぺ返しを食らうとは思ってもいなかった。

「後天性女体化症候群……?」

聞いたことも無い病名だった。自分は学が無い方だと思っているが、それでも絶対に知らない人の方が多い病名なのではないだろうかと武道は思う。
そんなセンシティブな病気ならニュース系バラエティ番組にでも取り上げられてそうなものなのに、今までのループの中でも、今回のリープの16年間でも完全に初めて聞く名前だった。
後天性と付くと言うことは先天的なものもあるのかと現実逃避の様な疑問は隣で話を聞いていた母親も思った様で、素直にソレを口にする。やっぱり自分と母親は血が繋がった親子だなぁと考え、息子が女の子になってしまったのに自分の好奇心の方が優先される親って何だと思わない事も無い。
この場に他の誰かがいたら、このマイペースさが武道と母親の似通った点であると思うだろう。

後天性女体化症候群。
症候群とつく通り、複数の症候が伴って認められ、原因が不明であるものだ。多くは外見の変化、ホルモンバランスの変化、内臓の変化の症状が見られる。その身体の変化は発熱などの様々な不調を伴い、1週間程で性別が男性から女性へと変化する。その過程で死ぬことは滅多にないが、その変化に伴う抑うつ症状などが原因で自死に至る事が多い。

その説明を聞いて、武道は昨日まではしっかりと男性であったハズだと疑問に思う。
一週間も寝込まなかったし、発熱は……そういえば昨日の夕方頃からちょっと身体がだるかったかもしれない。
朝起きて、自分の胸についたたわわな肉塊と無くなった息子に悲鳴を上げ、情けなくも母親に助けを求めたのが今朝のこと。
いくら事例が少ない病気でもこれは流石にどうなのか、と。
しかしその疑問を口にする前に母親が感心したように口を開いた。

「アンタ昔から丈夫だったもんね、こないだなんか骨折が数週間で治ってなかった?」
「えぇ、コレってそういう問題なの?」

一人息子の息子が無くなって娘になってしまったというのに何でそんなに薄い反応なんだと武道は不満に思うが、さんざん暴走族の喧嘩で怪我をしてきた息子だ。ドスで刺され、拳銃で撃たれ、としてきた子どもの身体が多少変化したくらいでは今更もう大きな動揺はしなかった。死なずに帰ってこれば掠り傷の様なものだ、と。

「で、コレは治るものなんですか?」
「残念ですが、今の所身体の変化が戻ったという事例はありません」
「あらま、じゃあ役所とか色々届け出ださなきゃかしら?」
「そうですね、こちらからも診断書など出させていただきます」
「あぁ、よろしくお願いします」

内心うろたえる武道を置いて母親と医者はとんとん拍子に話を進めていく。
もう少し動揺とか抵抗とかしてくれないのだろうかと母親に思うが、今までの自分の所業を考えればこのくらいドライな人でなければ自分の親など務められないのだろうと武道は諦めたのだった。


・・・


「はぁ……

母親は前向きでも突然の女体化は武道には晴天の霹靂でしかない。
携帯電話を握り本日何度目かも分からない溜息を吐いた。何度もメールの文書を打っては消してを繰り返し、最愛の女の子へ現状を何と伝えるべきか考えあぐねる。

女の子になっちゃいました! とほほ。

そんな軽い文章からカッチリした謝罪文まで考えて、あぁでもないこうでも無いとのたうち回る。
どのみち、女になってしまって男に戻れる可能性がほとんどないのであれば自分は彼女を諦めなければならないのだ。その事実がまず受け入れられない。

あんなにも頑張った結果がコレか? と。

日向が生きているだけで幸せなのだと思う事ができない事はない。彼女の幸せを第一に考え、無償の愛と思い出だけを胸に生きていくことだってきっとできるハズだと武道は思う。
しかし理不尽な現実に、何で、どうして、という疑問符は尽きなかった。疑問ではなく慟哭なのだろうとも分かっていた。
武道だって彼女を人生やり直し大会の景品の様には思っていない。だからと言って突然すぎる意味不明な理由で関係を失えるほど武道はドライではなかった。

それでも、伝えなければいけないと分かっている。
恋人が急に同性になってしまって、将来、結婚もできなければ子どもも授かれない事が確定したのだ。別れて、自分よりも素敵な男性と幸せになれと言うのが正しいのだと分かっている。過去のタイムリープでも何度も日向の父親に別れろと伝えられ、実際に何度も別れてきたのだ。その度に悲しみ、大泣きしてきた。いっそ付き合わない世界の方が良いのではないかと悩んだこともあった。
別れるべき理由はいくらでもあった。それでも別れられないのはただただ日向の事が好きだったからだった。

相手を好きだからこそ、愛しているからこそ手離さなければいけない。
今までだって何度もしてきたことだ。今回もきっとちゃんとできる、と武道は溢れる涙拭い、大きく鼻を啜って携帯端末に向き合った。

その瞬間、メールの着信音が響き渡る。
相手は日向だった。驚いてすぐさまメールを開くと夏期講習が終わったから会いたい、という内容だった。日向の進学した高校は武道の通う所よりも学力は断然上で、そういったカリキュラムも充実していると聞いていた。
やはり、自分の様な底辺野郎が付き合うには高嶺の花だったのだ。そう考えるしかなかった。

自分も話したい事がある、と返信をする。
大事な話で、急な事で驚くかもしれない、でも聞いてほしい、と。

……行くか」

ゆっくりと息を吐いて、うつ伏せに寝ころんでいたベッドから起き上がる。彼女の元へと行くにはもう少し身なりを整える必要があった。

体形が変わって、今までの服のいくつかは着られなくなった。
女の子になったのだから服なんてダボダボになってしまうかと武道は思っていたけれど、骨格が変わっても華奢になることはなく、むしろ筋肉が失われて脂肪が付いた分入らなくなった服の方が多かった。特にシャツの類は胸周りがパツンと張ってしまってみっともなくて着れやしない。ズボンの類は細身のものは腰回りがやっぱり入らなかった。

松野の家で呼んだ少女漫画で、二次性徴で自分の性別が受け入れられない少女がいたなと武道は思い出す。確かに、コレはちょっと嫌かもしれないと思う。
まだそこまで嫌な目にあってはいないが、これからきっと奇異の目で見られる事は確定しているし、そのうちきっと初潮が来て股から血が出る様になるのだろう。腹が痛くなるのは嫌だなぁ、と漠然と思う。

まだ勇気が出なくてブラジャーは付けられずブラトップを着て新しく買った大きめのTシャツを着る。更に大きめのパーカーを羽織って、ズボンも大きめのものを。
顔はあまり変わっていない気がするため、この服装なら鏡に映る自分はまだ男に見えた。

まだ、外に出るのは少しだけ怖かった。
自分が自分で無くなってしまった様で、人から奇異の目で見られるのではないかと不安で、夏休みのうちに慣れておかなければ登校拒否のヒキコモリになってしまうと分かっていながらもほとんど外に出ることは無かった。
自分の逃げ癖は結局変わらなかったなぁ、と少しだけ呆れ、誰かのためにしか何かに立ち向かう事は出来ないのかもしれないと武道は結論づける。今だって、外が恐ろしくても日向のためにだったら出かけるしかないのだと思えた。
自分には日向が必要なんだなぁ、としみじみ思い、それでも彼女のために自分から彼女を解放すべきなんだと決意する。
深めに帽子を被って、あまり大きさの変わらなかったスニーカーに足を突っ込む。

母親に日向の元へ行くと一声だけ掛けて、ドアを閉めた。


・・・


「タケミチ……くん?」
「うん」

呼び鈴を鳴らし、インターフォンで着いた旨を伝えると日向はすぐにドアを開けた。そして少しだけ不思議そうに武道を見た。

「大事な話って、それのこと?」
「うん、ごめん」
「ううん、謝る事はないよ。大丈夫。中に入って」

知らない人が見ればブカブカな服を着た性別不詳の子どもであるが、元々の武道を知っている者からすればすぐにその異変は分かるものだった。もともと大して大きくは無い背は少しだけ小さくなっている様で、その上で顔周りなども少しだけふっくらしている。身体つきなどは服で誤魔化せない程に明らかに以前とは変わってしまっていた。
それでもその顔は武道のものとほとんど変わらず、よく似た妹か姉がいたとしたら納得できるかもしれないと武道自身も思う。しかし、妹も姉もいないことは武道の知り合いなら全員知っている事だった。

「取り敢えずどうぞ、そこに座って」
「うん……

リビングに通されてソファに座る様に促される。素直にそこに座れば日向は武道の真横に腰を下ろした。

「あの……
「うん、大丈夫だよ。キミがタケミチくんだって、ヒナ、ちゃんと分るから」

寄り添う様に肩に肩が触れる。重くない程度に体重を掛けられ、武道はその体温をやけに暖かく感じた。

「大丈夫。大丈夫だから、手に、触れてもいいかな」
……うん」

脚を開いて座ったその膝の上で握られた拳に、日向の手が重ねられた。拳ダコのある手は女らしくない手だと思っていたが、日向のものと重ねるとソレが顕著に感じられた。以前のものとは少し違ってしまっていたが、タコの位置も龍宮寺を守るために刺された傷もそのままだった。
ぎゅっと握られ、血の気が失せて白くなっていたその手を日向は柔らかく包み込む。そうして、日向が暖かい以上に自分の体温が下がっていたのだと武道はようやく気付いた。

「ゆっくりでいいよ。だから、ちゃんと話して。何があっても、ヒナはタケミチくんの味方だよ」
「ヒナッ……ヒナァ! ごめん! ごめんよぉ!!」
「もう、謝ることは無いって言ったよね。大丈夫。大丈夫だよ」

手を握ってもらい、肩を抱かれる。
以前に抱き締めてもらった時よりも少しだけ大きく感じた。本当は武道の方が縮んだのだと分かっている。それが悲しくて武道は堪えきれずにボロボロと涙を流した。

「どうしたの? 大丈夫だから、教えて」

日向と会ってから何度“大丈夫”と言われただろうか、と思う程その言葉は武道の耳に残った。柔らかく、高い、女の子らしい声だ。

しかし、彼女の芯の強さがその声には表れている。だからこそ、武道は何度も彼女の言葉に助けられてきた。声を聞くだけで安心できる。自分を奮い立たせることができる。
恋とは偉大なものだといい歳をしてアホの様に思ったの事は何度もあった。

だからこそ、終わりにしなければいけない。

そう武道は理解していた。
彼女を自分に縛り付ける事は出来ない。先の無い関係には終止符を打って、幸せな未来を掴んでもらうべきなのだ、と。

ゴシゴシと袖で目許を拭い、深く息を吐いた。

「ヒナ、オレ、女の子になったんだ……
「うん」
「原因不明の病気だって、男に戻った人は今の所いないって……
「うん、つらいね」
「ごめん、ごめんよぉ……ひなぁ……。俺、ヒナのこと、幸せにできなくなっちゃった」

ポツリポツリと話す言葉はたどたどしく、潤んでいた。抑えていた自身の不安と彼女への申し訳の無さが溢れ出る様に涙へと変わる。
日向はその言葉を受け止め、武道を抱き締め、手を握った。

「だから、ヒナ、ごめ……っ!」

そしてゆっくりとその言葉を唇で塞いだ。
柔らかく触れる唇の感触は長く付き合っているのに慣れなくて、何度でも武道を驚かせた。涙に濡れた目が見開かれて、ずっと俯いて足元を見ていた瞳が日向を映した。

日向は怒ってもいなければ悲しんでもいなかった。
ただただ、武道を慈しむ瞳がそこにあった。

「ひな……?」
「タケミチくんは一つだけ勘違いをしているよ」

抱かれていた肩と握られていた手から彼女の手が離されて、暖かな掌が武道の頬を包んだ。

「私はタケミチくんが女の子になったからって、キミを諦めるつもりは無いんだ」
「へ?」
「私が死んでも、トラックに轢かれても、足の感覚が無くなっても、守るって言ってくれたよね。本当に、君が私を守ってくれたんだって私知ってるよ」
……
「だから、私も君に何が起きても、キミと一緒にいる。幸せにできないなんて勝手な事言わないで。私は幸せになる」

武道の目に、日向の真剣な顔が映る。その顔は嘘など全くついておらず、ただただ事実を述べ、決意を表明しているのだと武道にも分かった。

「君が女の子になった程度で私がタケミチくんを諦めるなんて思わないで」
「ヒナ……

武道の涙が止まったのを見て、日向は再び武道に口づけた。
唇を数回、ふにふにと食まれ割り開かれた隙間から舌が侵入する。キスは何度かしているけれども、深いのはしたことが無かったため武道は驚いて後ろに逃げようとした。
しかし、頬に触れる手と背中のソファに阻まれ、そのキスを受け入れるしかなかった。突き飛ばすなどという選択はできなかった。

「んっ、は……ぁっ」
「ん……

驚くほど甘い声が漏れ、粘膜を舌に愛撫されるたびに腰に甘い疼きの様なものが奔って身体がビクビクと震えた。
拙く舌を絡め返しながら、日向はこんなキスをどこで覚えたのだろうと頭の片隅で考える。彼女が不貞を働くなどあり得ないと分かっているため、きっと天性の才能か何かなのだろうと自分よりも頭が良く器用な恋人を少しだけ羨ましく思った。

「んぅっ……!」

舌先をチュッと吸われ、ビクリと身体を震わせる。ソレが合図だったかの様に日向は武道から唇を離した。

「今日ね、お父さんもお母さんも、直人も帰ってこないんだ」
「ふぇ……?」

まるで犯された後の生娘の様に武道は力なくソファに沈み込む。背もたれに触れる感触ですら肌をゾワゾワとさせ、胎の奥に感じる謎の熱にそういえば今の自分には勃つモノも無かったと思い出した。

「家族旅行と夏期講習うっかり被らせちゃったから、この家に今日は一人なの」

武道が初めての身体感覚に戸惑っているうちに日向は話を進める。

「ヒナね、タケミチくんが女の子になっても全然かまわないの。でもね」
「?」
「きっとタケミチくんが女の子になったら他の男の子たちは黙ってないと思うの。それだけが不安」
「そんな……

そんなことは無い、という言葉は声にならなかった。
別れを切り出そうとしていた理由はそんなものではないと日向も分かっているが、それでも武道が自分から離れようとするのが許せなかった。

「だからね、今日は君を帰さない」
「ヒナ……?」
「女の子同士の方が……ヒナの方が良い、ってタケミチくんに教えてあげるから」

ニッコリと笑う日向の目は笑ってはおらず、その瞳の奥に少しの欲が見えて武道は再びゾクリと背筋を震わせた。

「覚悟してね♡」

 

♡♡♡


どうしようかと困ってしまっているうちに日向は武道に今日は泊まるという連絡を母親にさせ、二つ返事で了承を貰った。性転換早々に貞操の危機であるが、処女膜が破れた所で命に別状は無いし相手は恋人だろうと花垣母は考えていたためそこについては黙認されている。

夕飯のほとんどは日向が支度し、武道は少しだけその手伝いをする。
女の子になってしまったのだからこういった家事の類も覚えなきゃなぁ、と自身の不器用さと掃除のできなさを反省したが性分なので治らないのだろうとも思っていた。日向にばかり負担を掛けるのはどうなのかと思い、自分が女になった今では男でも家事くらいやれよと他人に投げたいだけの怠け心が見知らぬ男や過去の自分を罵倒していた。
これでは日向と別れたとしても男と結婚などできないだろうな、と元来の自分のダメっぷりを自嘲する。

その日向はそんな武道の様子をあまり気にせずに上機嫌で料理をしていた。
もともと料理をするのは好きだったのだろう。武道に出す指示もどこか手馴れていた。(実際は料理をするのは好きであるが、指示に関しては弟の直人を顎で使っていたという理由であるが、武道には予想すらできないことだ)

この先も二人で一緒にいたければ家事も覚えなくてはいけないなぁ、と二人で肩を並べていると思う。自分がレンタルビデオ店の店長になれたのは偏に男だったからだと今なら分かる。そして、最初の世界での年下店長のハセガワが如何にすごかったのかも。
女になった今、またあのビデオ屋で働いたら正社員にすらなれるかも分からない。少なくとも店長の座は早々にハセガワに譲るべきな事態になると分かる。
看護師をしていたり教員をしていたり、日向の未来は様々であるが希望に溢れた優秀なものだった。そんな彼女と下手したらフリーターのまま終わるかもしれない底辺不器用女になってしまった自分が付き合っていて、同棲なんかしたとして、家事の分担は絶対に自分に比重が無ければ釣り合わないだろうな、と武道は考える。

その未来に辿り着くまでの10年でどこまで“まとも”な女の子になれるのか。
絶望的な気持ちと諦めずに何とかするしかないという根性論信者の自分が心の中で同居していた。

そんなことを考えながらも作った夕飯は美味しく、素直にソレを褒めたたえせめて皿洗いはさせてほしいと懇願するとその間に風呂の用意をされてしまった。
沸きあがるまで同じソファに座り、テレビを見ていたがあまり内容は頭に入ってこなかった。日向が武道に密着する様にすぐ傍に座り、腕を絡めていたからだった。
湧き上がると一緒に入ろうかと誘ってくる日向にまだ心の準備が出来てないからと丁寧にお断りをし、いっそ日向の入浴中に逃げてしまおうかとも考えた。
それでも、少しの期待と日向への恋心ゆえに実行には移せなかった。

・・・

執拗なまでに身体をゴシゴシと洗い、下半身はどこまで洗うべきなのか、人様の家だしムダ毛の処理ってどうしたらいいのか、などと大いに悩みつつそもそも女体化した時に下の毛などは一度抜け落ちてしまったのだと確認した。
そのうちまた生えてくるかもしれないがその時に剃るにしても脱毛するにしても調べようと決める。取り敢えずは今の自分ができる最大のケアをすべきなのだろうと童貞処女なりに気を遣う。そういえば、と昔龍宮寺の実家で爪のケアをしている男がいたと思い出し気にしてみたが、元々喧嘩をするために深爪気味にする癖がついているせいで不潔な長さでは無かった。
湯舟につかり、そんなことを考えているうちにふとコレは先に日向が入った残り湯であると気が付いてしまう。一瞬これはどうするべきなんだと更にどうしようもない事を考え、湯舟から上がりシャワーを浴びるもどうするもこうするも無いと気付き自分の混乱ぐらいに溜息を吐いた。

……

結局覚悟はあまり決まらないまま脱衣所へと上がり、日向に借りた寝間着に袖を通す。髪を乾かし執拗に歯を磨いて、なお決まらない覚悟に何度目かの溜息を吐いた。
大昔に龍宮寺の住むヘルスの嬢とヤるかもしれない、となった時などすぐに覚悟は決まったし、キヨマサに逆らうと決めた時も一瞬だった。それなのに過去のどんな決断よりも尻込みしてしまうのは相手が日向だからだろうと武道自身も分かっていた。

愛していて恋している大好きな女の子。
彼女に傷を付けてしまうかもしれない事など気軽に決められるワケが無かった。

そして何よりも武道を尻込みさせるのは日向を“抱く”のではなく“抱かれる”らしいという点だった。女の子同士でどうするの? という疑問から高校生の日向から積極的にえっちな事をされるという背徳的なシチュエーションにも武道は混乱していた。

しかし、あまり待たせるワケにもいかず、支度を終えれば日向の寝室に向かわないワケにはいかなかった。

ドアの前で数秒悩み、武道はコンコンと控えめなノックをした。
するとすぐに中から声が掛かり、カチャリとドアが開けられた。

「おかえりなさい、勝手に開けちゃっても良かったのに」
「そういうワケにもいかないだろ」

招き入れられた室内は女の子らしいものであり、武道の部屋とは掛け離れて柔らかく、良い匂いがした。コレが純正の女の子の部屋なんだという思いと、勉強机にキッチリと並べられた参考書に人間としての格の違いを思い知らされる。

そうして武道はやはり彼女には自分なんかよりも相応しい相手がいるのではないかと不安に駆られ、日向はその瞳の揺らぎを見逃さなかった。

「タケミチくん」
「ひゃ、ひゃいッ」
「ふふ、緊張はするかもしれないけど、できれば安心してほしいな。こっちおいで」

招かれるままにベッドのふちへと座り、再び手を握られる。

「ヒナね、タケミチくんから未来の自分の話を聞いた時、少しだけ納得したんだ」
「え……?」
「私、きっとタケミチくんしか好きになれない。稀咲くんや他の誰かから、もし想いを寄せられたとしてもね、ヒナは思い出の武道くんと比べてその人たちを振るの」

少しだけ困った様に笑い、日向は独白を続ける。
学校のマドンナ的存在で、美人で可愛く、頭の良い、それでいておちゃめな彼女が武道を好きになった時の話は一度聞いた。自分がそんなことをした記憶はもう遠の昔に薄れてしまったが、なかなかに不思議なシチュエーションで好意を抱かれたものだと武道は思う。

「タケミチくんほど、人のために一生懸命になれる人なんていないよ? 私や、マイキーくんのために、挫けそうになっても前を向いて、何度転んでも、酷い目にあっても、諦めずに戦ってくれた。そんなの誰にでもできる事じゃないの。もっと顔のカッコいい人がいるかもしれない、頭の良い人がいるかもしれない。でもね、ヒナが好きなのは誰かのために頑張れる人なの」
「ヒナ……

自嘲する様に笑い、日向は武道を見た。

「だから、タケミチくんが女の子になっても、タケミチくんよりも素敵な人はいないの。私が好きな人はタケミチくんで、他の誰でもないの」

そんなに変な趣味かな? という文句に武道は少しだけ肯定しそうになる。中々に難儀な趣味をした女の子だ、と。
大人になれば他の価値基準が生まれ、お金持ちで優しいイケメンを好きになった方が得だと分かりそうなものなのに、こんなどうしようもない自分を好きで居続けるなど勿体ないと武道は思う。

彼女との結婚式の直前に他の男と心中してしまう様なダメ男なのだと自分の事はよく分かっているつもりだ。
彼女を幸せにするために、彼女だけを幸せにするために、全力を尽くせる男くらいいくらでもいるだろう。その程度には日向は魅力的な女の子だ。

「ヒナはね、王子様なんていらないの。私のヒーローが良い」
……
「君は他の誰かを助けに行っちゃうかもしれない。でもね、そんな君が好きなんだ。私はそんな君を支えたいんだよ」
……ありがとう」

日向の真摯な想いを聞いて、武道は心が暖かくなる。
散々支えてもらって、愛してもらったのだと分かっていた。彼女の心を疑う様な事は無かったけれど、常にこんな自分には勿体ない子だという事実も心について回っていた。

それが、彼女の告白で覆される。自分が日向を射止めたのではない。
日向が自分を掴み取ったのだ、と。

「だから、女の子でも君が良いの。君以上のヒーローなんてどこにもいない」
「ぁ……

手を握られ、ジッと目を見つめられる。
キラキラと輝く蜂蜜色の瞳がドロリと濃くなり、瞳孔が少しだけ大きくなる。その様子に、日向も興奮しているのだと武道は分かった。

「私が君が好き。だから君と付き合いたいし、君が何者であったとして、何になったとしても別れたくはない。他の誰かにだって譲る気は無いの」
「え……?」
「私言ったよね。不安だって。君の幸せを考えたら、今からでも男の子を好きになって結婚できる相手を探した方がきっと良いのかもしれない」
「そんな……

そんなのは武道も同じ思いだ、と言おうとしてやはり言葉にならなかった。言わせないだけの凄みが日向にはあった。

「でもね、君が女の子になっても、他の男の子に盗られるのは我慢できない」
「ヒナ……
「ヒナ、タケミチくんが男の子ならきっと他のどんな女の子よりも魅力的になって君の傍にいる自信があるよ。でも、君が女の子になって、男の子に勝てるか分からない」
……
「でも、別れるのは絶対に嫌なの。もう君を失いたくない。君の幸せを願うなら取るべき選択を私はとれない。ごめんね」

最後は少しだけ申し訳なさそうに目を伏せて、それでも握った手は離さなかった。

「ン……

ゆっくりと近付いてくる唇を武道は避ける気にはなれなかった。自分が日向のためにするべき最善と同じことを日向も考えてはいたのだと思うと少しだけ胸がキュっと締め付けられる様な気持ちになる。別れた方が良い、と少し考えれば分かる事だ。
しかし、日向はそれを選ばなかった。武道が日向の命を諦めなかった様に、日向もまた武道への想いを諦めなかった。それがただただ嬉しくて、もうこんなに好きなら女の子同士だって良いのではないか、という気持ちになる。

柔らかく重ねられたキスがだんだんと深くなり、性感を引き出す様に口内を蹂躙されると武道はそれに何とか応えることしかできない。本当なら自分が男らしく積極的にリードすべきなのかもしれないが、残念ながらそれだけの学習能力も器用さも武道には無かった。

武道が背筋がゾクゾクする様な快感に溺れていると日向はゆっくりと重ねていた手を離し、武道の身体に触れた。

「あ……

服の上から太ももに触れ、女の子になってもあまり変わらなかった立派な筋肉の筋をなぞる。

「そこは、ちょっと……
「んー? どうして?」

どうせなら、華奢で可愛い女の子になれたら諦めもつくのに、と武道は思う。元の自分の面影がそこかしこにあるせいでどうにも中途半端なオトコオンナの様に感じて微妙な気持ちになる。
もうちょっと美脚にしてくれてもいいんじゃないかと武道は思ったが日向はこの脚も武道らしいと感じて好きだった。

「ヒナは好きだよ。折れそうな枝みたいなのよりも柔らかくてしっかりしてて……。直接触りたくなっちゃう……

感触を確かめる様にしっかりと、しかし優しく揉みしだかれると何だかゾワゾワする様な感じがして武道は少し顔を顰めた。多分コレは性感というヤツなのだろうと理解して、何故かヘソの少し下辺りが変な心地になった。
そんな武道の様子を見ながら日向はうっそりと笑う。武道が男の頃は流石に自分からキス以上の事をするのはできなかったが、今ならもっと凄い事をしてあげられる、と。

片手で太ももに触れたまま日向は武道の胸に触れる。下着は付けておらず、服もダボダボでは無いため、その形も大きさもしっかりと分かる様になっていた。体型を誤魔化す服を着ていなければ武道の身体は肉付きが良く、同性から見ても触れてみたくなるものだった。

「ね、ここもおっきくて凄くいいよね……
「ひゃっ♡」

その瞬間に今まで以上のゾワゾワが背筋を駆け上がり、武道はビクリと身体を震わせた。男の身体だったらその瞬間に射精してしまっていたかもしれない、と武道は瞬間的に思う。同時に、女の子の身体ってこんなに敏感なのか、とビックリする。

「ふふ、可愛い声でちゃったね」
「ぁ、う……♡」
「大丈夫。ヒナ、その声好きだよ」

日向の少し小さめの手では余るくらいのその柔らかな塊を持ち上げる様にゆっくりと揉み、日向は再び武道に顔を近付けた。
キスをされる、と思った時には武道は目を瞑って受け入れる態勢になっていた。元々付き合っていて、大好きな相手に触れられて嫌なハズが無かった。自分の身体の変化に戸惑いこそすれ日向への想いが変わることは無い。

「あ、んぅ♡」
「ンっ♡ ふ、ぅ……♡」

吐息が熱くなるのを感じる。
舌を絡めながら身体ごと密着する様に日向は武道に乗り上げる。いつの間にか脚から離していた手は武道の手に絡められ、指を絡めてぎゅうっと握られていた。その間にも武道の胸は日向の手により柔らかく揉み上げられ、武道は“気持ちいい”以外の事が考えられなくなる。

「ふっ♡ はぁ、あ……♡」

ゆっくりと離された唇にはツ、と唾液の糸が引かれ艶々と濡れていた。
上気した頬から目許は赤く染まり、焦点の定まらない青い瞳がユラユラと揺れていた。

「ん、キモチイーね?♡」
「うん♡ ヒナァ♡ 好きぃ♡♡♡」
「私も大好きだよ、タケミチくん♡」

武道が慣れない性感と酸欠にクラクラしているうち日向は顔中にキスの雨を降らせる。潤んだ瞳から涙が零れたらソレも吸い取ってしまいたいと思いつつも、泣き出すのはこれからだろうなぁと予想する。

「ふふ、えっちな顔だね♡」
「そんな……♡」
「おっぱいも大きくて気持ちいの大好きで、女の子のタケミチくんはとってもえっちで可愛い♡」

柔らかく揉んでいた手の動きを少しだけ大胆にして、日向は言葉を続ける。

「でもね、キモチイイのはヒナの手だからだよ?」
「ふ、ぇ……?♡」
「こんなエッチなおっぱい、男の子とえっちしたらもっと乱暴にされちゃう。形が変わるくらい揉みしだかれて、乳首だって痛いくらいつねられて……もしかしたらジュッて吸われて噛まれちゃうかも」
「ひぅ……♡」

日向に柔らかく触れられながら、彼女の言葉の通りに知らない男に乱暴にされる自分を想像して武道は怖くなる。武道も成人男性だったことがある上に、レンタルビデオ店で働いていたため業務上で男の妄想の具現であるAVは人並み以上に見ることが多かった。大きな胸とは男の欲望、そして羨望の的であることは間違いないと理解している。
もし、日向と別れて自分も女として生きようとした時、大人の男女の付き合いは絶対に避けられないだろうと思う。その時、自分がどんな扱いをされるのか、女になってその恐怖が初めて分かった。

「そんなのやだぁ……
「ん、怖いね。でも、大丈夫だよ。ヒナと付き合ったままなら、タケミチくんの気持ちいい事しかしないから♡」

想像だけで怖くなってしまった武道に安心させる様にキスを落とし、耳もとで囁く。

「ね? ヒナなら気持ちい事だけしてあげる♡ だから、タケミチくんにもっとえっちなコトしてもいいかな?♡」
「あ、ぅ……♡」

服の上から、焦らす様に日向はその胸を撫でる。先ほどまでの行為でも触れてはいないその先端は服を押し上げ、形が分かる程に充血していた。

「ひなぁ♡ おれぇ、おれぇ……♡」
「うん♡ タケミチくんは私にどうして欲しいのかな?♡」

武道自身からねだる様に、心も身体も陥落する様に、日向は指先で焦らす様に触れる。
ゾワゾワするのに嫌ではなく、ビクビクと腰が跳ねそうになり、今までなかったであろう胎の臓器がきゅん♡と脈動する。じわじわと侵食される様に武道はぼんやりとした頭が「気持ち良くなりたい」という言葉でいっぱいになる。
先ほど想像させられた乱暴な男の手ではなく、日向の優しい愛撫で今まで触れなかった箇所に触れられたら、そんな妄想が止まらなくなる。

「ひ♡ うぅっ♡」

ビクリ、と武道の身体が震えた。触れられても無いのに何故、と驚くがその瞬間の背筋を駆け抜ける甘い感覚が何か、武道にも分かった。
そして、ソレは武道をジッと見ていた日向にも分かるものだった。

「ふふ♡ 想像して甘イキしちゃったね♡ 可愛いなぁ……♡」
「ひなぁ……♡」
「いいよ♡ もっと凄いコト、してあげる♡ だから、ヒナに許可して? この可愛いお口でちゃんとおねだりしよ?」
「ん♡ ひぅ……♡」

唇に軽く指先が触れるだけで武道の身体に官能が奔る。口など男の時からあった物を食べる器官であったハズなのに、日向に触れられるだけで性感を感じるための器官に変えられてしまったのだと武道は理解した。
そんな日向に自分が勝てるハズも無かったのだと武道は思う。心も身体も全て明け渡して、全部気持ち良くされてしまいたいという欲望が止められなくなるのを武道は感じた。

「ひなぁ♡ 俺、ヒナがいい♡ ヒナの手で、俺の身体めちゃくちゃにして♡♡♡」

そうして、武道の唇は欲望のままにその浅ましい願望を口にしていた。

「うん、おねだりちゃんとできて偉いね♡ ヒナを選んでくれてありがとう♡♡♡」
「ひぁんっ♡♡♡」

武道の言葉を聞き、日向はぎゅうっと武道を押し倒す様に抱き締めた。実際、突然の勢いに敗けて武道はベッドに倒れ、ギシリとスプリングが軋む。女体化した言えど今まで散々不良の男達の拳を受けて来た武道にとっては負担ということはなく、さすが生粋の女の子は羽の様に軽いのかと夢見がちな事を思う。もちろん、日向は押し倒した後はあまり体重を掛けずに腕と足で支えている。

顔中にキスの雨を降らせつつ、身体を密着させれば服越しに柔らかな感触が触れあう。自分のものよりも少し大きいソレに元から女だった身としては少しだけ悔しく思わなくも無かったが、今しがたこの身体全てが日向のものになった様なものだと思えばプラマイゼロどころか全てが自分の得にしかなっていないと日向は満足気に武道の身体を堪能した。

「ふ、ぁ♡」

少し身体を離し、再び胸に触れると武道は甘い声を上げた。別れなければいけないという自責の念を取っ払ってしまえばいやらしい期待でいっぱいなのだろう。
もう付き合って何年も経っているのだ。本当ならずっと前に身体を繋げてしまっていても不思議ではない関係で、それでも一線を越えなかったのは日向の父親の存在と武道自身が26歳だった頃があるからだった。精神的には大人である自分がティーンエイジャーの女の子に手を出すのはいけない、という思いは確かに武道になった。
しかし、自身の性別が変わってしまったという混乱した状況かつ、日向に手を出す自分ではなく日向に手を出されているという免罪符がある今の状況で、日向の言葉をまるで洗脳でもされる様に唯々諾々と武道は飲み込んだ。もう大人としての矜持や倫理観など食べられる側になった武道には存在しないのだろう。
快楽に従順になった様が可愛くて、日向は武道が気持ち良くなることを最優先で触れる。

「あっ♡ ひなぁ♡ そこ、そこぉ♡♡♡」
「ふふ、おっぱいキモチイイねぇ♡ タケミチくん♡」

指先で横乳の辺り……スペンス乳腺を刺激しつつ掌でツンと尖った乳首を柔らかく擦る。それだけで武道は半泣きになりながらビクビクと身体を震わせた。
耳を吐息で嬲る様に囁けば武道はコクコクと首肯する。言葉を返す余裕はないらしい。まだ柔らかく緩い快楽しか与えていないのにこんなにも出来上がってしまっていて、ソレが可愛らしいと思うと同時に少しだけ怖くなる。
自分以外は嫌だと言わせることに成功したが、もし自分よりも先に他の男に相談などしていたらペロリと食べられてしまっていたのだろう。そう確信できる程、武道は快楽に弱い様子を見せている。胸を揉まれたくらいでこんなにもトロトロの表情を見せる女子などそうそういない。

「ん♡ くぅ♡♡ んぅうっ♡」
「は、ぁ♡ かわいー♡」

服の上からでも分かる頂点の尖りの周りを、焦らす様になぞればその緩い刺激に少しだけじれったそうに武道は腰をビクつさせる。
あまり焦らし過ぎても可哀相であるが、焦らさせるのも気持ちいいのであろう武道の様子に日向は少し意地悪をしたくなる。

「おっぱいキモチイーねぇ♡ このままゆるゆる刺激してたらタケミチくん蕩けちゃいそう♡」
「ふっ、うぅ……ッ♡♡♡」
「あは♡ えっちな泣き顔♡」

全体を揉むのをやめてその尖りの周辺を指先でクルクルとなぞる。
もっと強い快楽に曝されたいのに、ソコに触れてもらえればもっと気持ち良くなれるのに、と浅ましい願望でいっぱいになっているのに武道は自分で触れる様な事はしない。無意識のうちに日向に服従してしまっていた。

「ひなっ♡ もう♡♡ もぉ♡ おれぇ♡♡♡」

言葉での必死のおねだりに日向はゾクゾクした気分になる。自分にこんな征服欲があるだなんて思っていもいなかった。
しかし、日向も武道を気持ち良くしたいと言う気持ちに嘘はない。泣いておねだりする恋人の願いを叶えてやろうとニッコリと笑う。

「うん、焦らしてごめんね♡ いっぱい気持ち良くなって?♡」
「ひゃあああっ♡♡♡」

痛くない程度にキュッと乳首をつまむと武道は悲鳴を上げて腰をビクつかせた。
焦らし過ぎた、と初めてのえっちなのに乳首イキをキメさせてしまった事を少しだけ反省するがその淫蕩で可愛らしい様を見れた事に後悔はしていなかった。

「は♡ イキ顔かわい♡」
「ふ、へ……ぇ♡」

武道がふわふわクラクラする頭で乳イキの余韻を享受しているうちに、日向は身体を起こしてプツプツと寝間着のボタンを外す。現れた乳白色の柔い肉は重力に従って横に垂れながらもその先端は真っ赤に染まってツンと上を向いていた。

「いただきます♡」
「んぁあああああっ♡♡♡♡♡」

ベリーの果実の様で美味しそうだと思うと同時に、日向は迷いなくそれを口にした。
急な刺激に武道は悲鳴を上げ、そこでイッたばかりだというのに再びの快感に涙を流す。先ほど宣言したように、日向は歯を立てたり強く吸いついたりするようなことはしなかった。ただ、柔らかな唇で食み、ぬるついた舌で充血した蕾を転がしただけだった。
その甘やかな快楽が幾度となく武道を追い詰め、乳首による連続絶頂を与えていた。

「あっ ひゃああ♡♡ もっ♡ らめぇ♡♡♡」
「んー♡ どぉして?♡」
「変になっちゃうっ♡♡♡ おっぱいだけでこんなっ♡ アァっ♡♡♡」
「大丈夫だよ♡ タケミチくんちゃんと可愛いもん♡♡♡」

ワケが分からなくなりつつも、女の子が胸だけでこんなにも乱れるのは中々にありえない事だと男の武道にだって分かっていた。よほど開発でもしない限り、こんなにも快楽を拾う箇所ではないと知識として知っている。
その戸惑いに少しだけ攻める手を緩め、日向は乳首への直接的な刺激から軽く胸元にキスを落とすだけの緩い刺激に切り替える。

「全然へんじゃないよ? だって好きな子とえっちなコトしてるんだよ? おっぱいちゅうってされたら幸せになっちゃうものだもん」
「ふぇ♡ そう、なの……?」
「うん、好きな子に優しくおっぱい揉まれて、乳首クニクニされてるんだもん♡ それだけで嬉しいし、気持ち良くなっちゃっても仕方ないんだよ?」

日向は戸惑う武道に優しく言い聞かせる。
こんなにもえっちが気持ち良いのは自分が相手だからなのだ、と。

「今日はタケミチくんをいっぱい気持ち良くしてあげたいんだけど、今度はヒナにも触ってね? 好きな子に触ってもらえるなら女の子はすっごく気持ちよくなれるんだから♡」
「うん♡ 分かったぁ♡」

日向の言葉を武道は素直に受け入れ、ぼんやりとした頭にコレは普通のことなのだと刻み込む。日向の手で気持ち良くなること恋人同士なのだからは当然なのだ、と。
そんな武道の様子を眺めつつ、日向はキスを落とす箇所を胸元からだんだんと下の方へと下ろしていく。腹の辺りにキスをすれば武道は擽ったそうに、それでもリラックスした雰囲気で吐息を漏らした。
そのうち此処も開発すれば擽ってイかせることもできるかもしれないなぁ、と思いつつそこまでしてしまうと日常生活に差し障りがあるかもしれないと日向は思い直す。気持ち良くしてあげたいだけで、困らせたいワケではないのだ。

「こっちも、いいかな?」
「うん……♡」

服の上から足の付け根をなぞれば武道は少し恥ずかしそうに腰を上げ、自分でズボンを脱ごうとする。その様がまるで大事な箇所を自分に捧げられている様で、日向はゴクリと生唾を飲み込んだ。
ズボンから足を抜くと先ほど撫でられていたしっかりと筋肉の付いた脚が晒される。見た目はゴツめで、パツンと張りがある武道らしい脚だった。
その質量を少しだけ重いなと思いつつ、持ち上げ、湿り気を帯びた下着に指を添わせた。

「コレも、脱がしていいかな?」
「あ、ぅ……はい♡」

こちらもまずは服の上から刺激してあげた方がいいのかもしれないと思いつつも、武道を焦らしていた日向自身そろそろ我慢ができなくなってくる頃だった。
下着に指を掛け、脱がせるとツゥとクロッチの部分に糸が引く。コレは明日洗濯して乾燥機にかけないと帰せないなぁと冷静に考えつつ、胸での絶頂でこんなにも濡れてしまった恋人が可愛くて仕方がなかった。
下生えの無いつるりとした肉厚の割れ目にこちらは白桃の様だと感想を抱く。
どこもかしこも瑞々しく、美味しそうだった。

「はぁ、かわい♡」

太ももを抱き抱える様に割り開き、秘部に顔を近付けると吐息が当たる感触で武道は背筋をゾクリと震わせた。そんな箇所に人の顔が来たことなどなく、マジマジと見られるのも初めてだった。恥ずかしくて閉じてしまいたいのに、自分の脚が日向の首をカニ挟みになどしてしまったらただでは済まないので羞恥心に耐えながら必死に足を開く。
風呂場で散々洗ったが一般的な女の子がセックスの前にどの様にしているのかなど武道には分からない。匂いや中のどこまで洗うべきなのかも分からないため自信が無かった。それを伝えるべきかと悩み、口を開く。

「ひな、その……♡」
「あぁ、ごめんね♡ もう焦らさないから安心して♡」
「ふ、え……? あ゛ッ♡♡♡♡」

日向が言葉を告げると同時に、恥ずかしい箇所にヌルリとした感触とゾワリとした快感が奔る。
割れ目に侵入する様に秘所を舐め上げられ武道は悲鳴を上げた。柔らかく外側から責められた胸の時とはまた違う快感だった。視界がチカチカと点滅する様な衝撃に逃げそうになる腰と脚を必死にベッドに押し付ける。下手に暴れて日向に怪我などさせられない。
そんな武道の様子を上目で観察しつつ、日向は舌でその皮を冠った陰核を優しく剥いていく。仮性のクリトリス包茎であるが、女の子になったばかりだからだろうかと考える。真性ではないのでコレはしばらく様子見をしてもいいかもしれない。
大人になるまでに剥けた状態にしてあげればいいのだと日向は勝手に考える。どうしようも無かったらレディースクリニックを薦めるのもありだろう。
それはその時考えれば良いと頭の隅に追いやって、今は目の前の武道の身体を気持ち良くしてあげることだけに集中したいと思い直す。

「あ゛ぁっ♡ ひん♡ はっ♡ ぁあ……♡♡♡」

キモチノイイ所を日向に差し出しながら、シーツに縋って武道は快感にひたすら耐えていた。恥ずかしさや逃げたいという気持ちと、このまま蕩ける様な感覚をずっと味わっていたいという淫らな気持ちがせめぎ合う。
どうせ逃げる事などできないし、したくはないから享受してしまえばいいのにと自分でも思うがどうしても恥ずかしさだけは消えなかった。その羞恥心が快感を煽ってる事に気付かないまま武道は甘い声を上げることしかできない。

「あぁぁああああっ♡♡♡♡♡」

舌での優しい愛撫の最後に少しだけ強くチュッと陰核を吸われ武道は激しく絶頂した。それまで繰り返した緩い甘イキとはまた違う感覚に背筋を仰け反らせる。ビクビクと身体を震わせながらその余韻に浸っていると日向が態勢を変えた。
いつの間にか下を脱いでいた日向が武道の片足を抱き上げる様に持ち上げる。松葉崩しの様な態勢に瞬間的に武道は「あ、俺ヒナに犯してもらうんだ♡」と理解した。
挿入するものは無くともヌルリとした感触と、秘部が触れ合うクチュリという水音が生々しく、自分がボトムであるのだとまざまざと思い知らされる。

「動くね♡」
「はぃ♡♡♡」

蚊の鳴く様な、弱弱しく小さな返答しか武道にはできなかった。初体験をする生娘以外の何者でもない今の武道にはソレが精いっぱいであり、日向の動きに合わせて腰を振るなどといった芸当はできない。

「あっ♡ あぁっ♡ ヒナ♡♡ ひなぁ♡♡♡」
「ふっ♡ は、ぁ♡ タケミチくん、タケミチくん♡」

先ほどまで舌で愛撫されていた陰核同士が触れ合ってコリコリと刺激し合う。止まらない愛液によって乾くことなく淫らな音を室内に響かせていた。
もはや互いの名前を呼び合う事と、快感を貪る事しかできずにただひたすら腰を振る。
それに合わせて揺れる胸がまた快感を拾い、ただ揺さぶられる。陰核を吸われた時の様な激しい快感ではないのに日向と交わっているのだと思うと妙な高揚感が武道の胸に蟠る。

「ひなっ♡ ひなぁ♡♡♡ 好き♡♡♡ 好きぃ♡♡♡♡♡」
「タケミチくん♡ ヒナも♡ タケミチくんのこと大好き♡」

ゴリ、とひときわ強く腰を押し付けた瞬間、日向と武道は同時に絶頂を迎えた。物理的な快楽というより二人で名前を呼び合って感情が高まった結果の事だった。
抱えた脚をゆっくりとベッドに下ろし、日向は武道の横に寝そべった。

「ふふ♡ 気持ち良かった?」
「うん……♡」
「そっか♡ 良かった♡ コレでタケミチくんはずっとヒナと一緒だね♡♡♡」
「うん、俺、ヒナと一緒がいい♡」

何度も絶頂させられ、力の入らない武道の頬を日向が撫でる。
柔らかく髪を梳いて、その額にキスを落とした。