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【R18】因習村の面白外国人枠・裏

 

改め、因習村の異国産ギャングスタ

 

・・・

 

 

 

「初めまして」

 

蒼く光る瞳が寺野を捉えた。弓なりに歪むその目はシャーマンらしくどこか不気味で、それでも会えて嬉しいのだと伝える様に、眩しいものでも見る様に細められていた。

 

「寺野南くんですね」

「は……」

「ずっと、貴方をお待ちしておりました」

 

伝えてもいない本名を呼ばれ、寺野は瞠目した。

異国の、山奥の、外の世界など知らない籠の鳥の様な存在に、『ディノ・サウス』のボスが名前を知られているハズが無かった。

 

「お前は……」

「お会いできて嬉しいです」

 

日の光など浴びたが無いかの様な異様に白い肌に、まともに筋肉の付いていない細い手足。やつれてはいないが健康的とは言えない男だった。

魅力など皆無と言っても過言ではないその男からどうしてか、寺野は目を逸らすことができなかった。

 

 

 

・・・

 

 

事の始まりは数か月前。

寺野の統べる犯罪組織ギャングチームは“輸出入関係”の仕事のために日本の犯罪組織ヤクザと交渉をしていた。その大詰めにボスである寺野が来日し、交渉は滞りなく進んだ。

 

12の時に父親代わりだった当時のボスであるディノを殺してから、寺野はギャングスタの道を歩んできた。抗争の中で病弱だった母を亡くし、両親がいなくなって、寺野はいよいよ“王”と成った。身体能力、武器の扱い、犯罪組織を運営していくだけの頭、全てが備わっていた。唯一の弱みだった母親を失った寺野はただただそういう機構(システム)であるかのように組織を大きくしていった。

順風満帆とは言い難い人生だった。それでも、その圧倒的暴力は他の組織の追随を許さず、寺野をより多きな組織の王へとさせた。

強盗やスリで稼ぐちんけで粗末な組織ではなくなったディノ・サウスが、マフィアややくざと取引を始めた頃、寺野も名実ともに大人と言える歳となった。

単純な年齢だけで侮られないのは良いことだと思う。もう少し生まれるのが遅かったら寺野と他組織の交渉はもっと難航していただろうと予想ができた。

 

悪くはない日々だった。

己の衝動性をコントロールすることができる様になってからはますますギャングスタとしての風格が出てきた。その衝動を無くすことはできないし、その必要もないと寺野は理解していた。

ティーンの頃に散々振り回された衝動性を飼い慣らし、必要な時にソレを出すことで寺野は敵を圧倒してきた。常に身体をドロドロとした何かに蝕まれている様な感覚は消えないがもうこれは一生付き合っていくのだろうという奇妙な確信も寺野にはあった。

 

日本のやくざとの会合も終わり、あとは帰るだけとなった時、やくざものの一人から世間話でもするようにその話はもたらされた。

 

この国のとある山奥の集落には先見の神子と呼ばれるシャーマンがいる、と。

 

そのシャーマンは寺野達の多くと同じ戸籍を持たない存在であり、かつては村の存続のためにその超常的な能力を使っていたが今はそんな必要もなく形骸化した信仰と共に籠の鳥になっている。

なぜその男が寺野にそんな話をしたのかは分からなかった。何か意図があったのかもしれないし、ただの世間話だったのかもしれない。

かつてはこのやくざ組織もその神子の恩恵に預かったことがあるらしい。その村の出身の組員がいれば神子へのアクセスは比較的簡単であるそうだった。

まだ年若い寺野をからかう目的だったのかもしれない。安定しているというよりは発展中であるディノ・サウスの未来でも視てもらったらどうかと男は言った。

無視して帰るという選択もあったのに、何となく寺野はその話に乗ることにした。

 

そうして寺野はその村を訪れた。

 

「……」

 

完全に素人の男女が2人。

多少腕が立つのが1人。

素人ではないが大したことないのが2人。

 

寺野と同じく神子に会いに来た来訪者への見立てがソレだった。

うち二人が同業者で、一人が警察か何かだろうか。残り二人がカタギなのは間違いないだろう。体つきと佇まいを見れば多少の事は分かるつもりだった。

多少腕が立つと言っても寺野に敵う様なものではなく、大した障害ではないと判断する。敵意は感じないため、向こうはこちらの素性には詳しくないのだろう。

 

お互い、知らぬ存ぜぬで通し、神子に未来を視てもらっておしまいにしようじゃないか。

 

と、その時の寺野は思っていた。

 

 

 

・・・

 

 

そうして謁見したシャーマンだけが寺野の予想を超えたものだった。

多少の頭と圧倒的暴力があれば寺野は王であった。そのため、枯れ枝の様な手足を持つ生白い青年に気圧されるのど初めてのことだった。

 

薄い竹のカーテンで外界と隔てられた空間で、寺野は神子と向かい会った。

神子はあまり大事にされている様な印象は受けないが、それでも妙な気品の様なものを感じる。その稀有な能力をもって君臨する王というワケではなく、ただただ異教の神の使者か何かなのだろう。

 

「大丈夫です。貴方の素性を知るものは俺一人ですよ」

「どうやって知った?」

「俺は先見の神子ですからね。アンタが来る未来は視えていたんです」

 

どこか嬉しそうに男は話す。

その表情に好意の様なものが見えて寺野は尻の据わりが悪い様な気分になった。

殴れば殺せそうな青年に何を恐れることがあるのか。視えた所で殺されては何の意味も無いだろう。

 

「俺が視えるのは触れたものの未来だけ。アンタが来るのは視えても他の事は分からないから。どうぞお手を取ってください。貴方の先行きを視させてもらいます」

「あぁ……」

 

差し出された細く小さい手は寺野のものと比べると赤子か何かの様で、片手でその両手を包み込んでしまえそうなほどだった。

体温が低いがすべすべとした肌触りは悪くなく、男の手を握っているのにそう悪い気分にはならなかった。

 

瞼を伏せるとそのやたらと大きな目を縁取る黒く長い睫毛が目立つ。神子がこちらを見ていないのを良いことに不躾に観察すると、なかなかに神子の容姿は整っているなと寺野は思う。肉付きの悪さがどうしても目立つが、アジア人特有の若いというよりは幼い顔つきだ。赤子の様なソレを一般的に可愛いのと言うのだという認識は寺野にもあり、庇護欲を誘うのは弱者が生き残る戦略としてはアリだと思う。

少なくとも、この顔を殴りたいとは寺野には思えなかった。暴力的な衝動は常に絶えないのに、ソレを我慢してコイツには柔らかく触れてやろうという気になる。

 

再びゆっくりと瞼が上げられ、神子は微笑む。

 

「今行っている商談は間違いなく上手くいきますよ。ただ、商品を広める段階でいくつか不安要素がありますがそれも何とかなります」

「ほう」

「貴方の先行きは悪くない。これからも貴方は君臨し続けることでしょう」

「ヴィーヴォ! それは素晴らしいな!!」

 

おべっかを使われている、という感じはない。ただ事実を淡々と伝えただけであるというスタンスを神子は崩さなかった。

 

『さて、ここからが本題なのですが……』

「ッ!?」

 

急に神子から流暢なポルトガル語が紡がれ、今度こそ流石のサウスも動揺した。

 

『もしよろしければ、俺を攫ってもらえませんかね?』

『どういう事だ?』

 

籠の鳥でしかない男がどうやってこんな知識を得たのか。事前情報では神子は村民に逆らわないように妙な知識は与えないように育てられるハズだった。

 

『ずっと貴方をお待ちしていました。幼い頃に、俺は貴方に連れられこの村を出る未来を視ました。そして、異国で共に過ごす未来も』

『まさか言語もそこから学んだのか?』

『はい、骨が折れる作業でしたが時間だけはたっぷりとあったので』

 

へにゃりと神子が困った様に笑う。

それは現状を憂いているとか、寺野を救世主として媚びているという顔ではなくこの国に来て何度も見た諦めの少し混ざった表情だった。

 

『俺は見ての通り、この未来視という一芸しか持っていませんが、邪魔にはならないハズです。ずっと、貴方に攫われることを夢見て生きてきました』

情熱的だなコーンパッショーネ。それで、俺に振られたらどうするつもりなんだ?』

 

時間はたくさんあったと言えど、自分の未来を視てそこから何かを学ぶという荒業がとれるのなら他にもできることはあるハズだ。それこそ他の脱出方法をとる準備だってできる。

 

『もし貴方に攫っていただけなければ、俺はそれまでの命です。もうご存じかと思いますが、先見の神子は時代の神子の出現を預言し、神へと返還されるものなので』

『お前を迎えに来たという男女がいたが?』

『あの二人に迷惑をかけるワケにはいかないので。それに、その未来は上手くいかないことが分かってます』

『……』

 

つまり、他の未来では上手くいかなかったから寺野に賭け、博打に負けたら潔く死ぬつもりであるという事だった。

寺野と外へと逃げる未来は視えても、寺野を説得する現実は一発だけのぶっつけ本番。正確なシミュレーションをしても、上手く身体がついていかずに失敗する可能性があると認識しているのが妙に殊勝で可愛らしかった。

 

『もし連れて行っていただけるのでしたら、俺は俺のすべてをアンタに捧げます。未来を視る能力も、そこから得られる報酬も』

 

だから、もし良かったら、迎えにきてくださいね。

そう言った神子はやはり少し諦めの入った困った様な笑みを浮かべていた。どうしてそこまでの演算機能を持ちながらも失敗する可能性を想像するのか、寺野には分からなかった。

 

次の謁見者と交代して、寺野は考える。

悪くはない話だった。きっとアレがいなくても未来は何とでもなるのだろう。しかし、アレがいれば危険な橋を渡らずに済む場面が増えるハズであり、未来視の能力など使い様によってはいくらでも金儲けに使える。

もちろん、やくざからもたらされた情報で此処に来た時点であの神子を攫えばそういった火種にもなるのは未来視能力を持たなくても見えているが、本人が視て大丈夫だと思ったのなら大した問題でもないのだろう。

 

ほとんど腹は決まっていたが、もう一度会ってみるかと翌日の謁見を予約する。

どうせ攫ってしまえば時間はいくらでもあるだろうが、暇つぶし程度にはなるだろうし、何よりもあの男と話をするのは悪くない気分だった。

衝動を抑えようという気分にもなるが、アレの傍はどうにも凪いだ気持ちになる。話をしても穏やかでいられるのは寺野にとって貴重なことだった。

 

 

 

・・・

 

 

そうして儀式の夜になり、寺野は動き出す。

神子を攫うつもりの人間は自分と、神子の幼馴染の男女だ。幼馴染を殺したらアレは悲しむだろうからできれば出会いたくはないが、寺野にとって殺しは呼吸とそう変わらない行為だった。

本殿へと向かう途中、見張りとは違う気配に足を止めた。

 

「ッ!」

 

気配のする方へと拳銃を向けると女がいた。反射的に撃つという事も無く、冷静に照準だけを合わせ、寺野は女を見た。銃を向けられているというのに女は悲鳴を上げることもせずに、少しだけ悔しさを滲ませた表情で寺野を見つめる。

 

「タケミチくんをよろしくお願いします」

「……とめないのか?」

「ずっと、昔。タケミチくんと話をしたことがあるんです。自分は将来、死ぬか金髪の男に異国へと攫われるかの二択を迫られる、って」

「……」

「私てっきり、もっと王子様みたいな人がタケミチくんを迎えにくるんだと思ってました。想像よりも厳つくてちょっと残念ですが、貴方と話をして、タケミチくんが貴方を選んだのなら私はそれを尊重します」

 

ハッキリとした物言いに度胸のある女だと思う。

もしも寺野が神子を攫う決断をせずに、神子が死を選ぶのなら自分が攫おうと思っていたらしい。そこまであの神子に執着しているのに、神子が望むなら手放すこともできるのは愛情ゆえだろうか。

寺野にはまだ分からない感覚であるが、本人たちがそのつもりであるなら寺野に異論はなかった。

 

「だから最後にタケミチくんが選んだ人と話しておこうと思いまして。これからって時にお邪魔してしまいすみません」

「いや、構わない。度胸のある女は好きだ」

「ふふ、嬉しくない。でも、ありがとうございます」

 

もう二度と会えないであろう幼馴染を攫う相手に女が何を思ったのかは分からない。

それでも、寺野の様子から神子をぞんざいには扱わないと思ったのだろうか。ゆっくりと丁寧に頭を下げ、女は寺野に背を向ける。

 

拳銃を持った相手、本当に度胸があると少しだけ呆れた。

 

その背中が見えなくなる頃、見張りの村民を撃ち殺し、寺野は地下へと降りていく。

まるで人目を阻むかの様な新月の夜が好都合だった。生贄の風習など現代では考えられないが、もしかしたら大昔からも忌避されるものだったのかもしれない。

 

次の世代へと能力を継承する儀式であるのだと武道は言っていたが、その儀式をしなかった場合にどうなるのかは不明で、したからと言ってすぐに新しいシャーマンが生まれるワケでもないらしい。

古来からの風習などそんなものであるとは思うが、実に馬鹿らしいものだ、とサウスは考える。今あるものを最大限有効活用せずにどうするのか。もしかしたら武道が最後の継承者であるかもしれないのに次が生まれる前に殺すなど勿体ない。

せめて次が生まれるまで待ってみてもいいだろうに、なぜこの村の者はそうしなかったのか。

 

「……」

 

本殿の奥、階段を下りて地下へと入る。

そこでソレを見て、単純に恐れたのかもしれない、とサウスは思い至った。

この国の婚礼衣装である白無垢を着て、木で出来た牢の中で、男は笑っていた。

 

頬と唇に紅をさし、暗がりの中で小さな明かりに照らされた男は奇妙なまでに艶やかだった。女のような色香など二十五を超えた男にあるわけがないと思っていたが、年齢や性別に関係しない何かがその男にはあった。

 

未来を見通すという蒼い瞳が赤い炎を映して揺れる。

否、揺れているのは炎だけであり、その瞳は落ち着いた様子を崩してはいない。

 

あり得ない、急な来訪であるのに男は狼狽えることなく微笑む。

 

「花垣武道、お前を攫いに来た」

「はい、お待ちしておりました」

 

外で監視していた者が既に死んでいることも、知っているのだろう。しかし、その瞳に悲しみはなかった。うっすらと喜びすら滲ませているのは、寺野が此処に来たという事実への歓喜なのだろう。

 

全てを見通す瞳を持つなどと言われている男だ。それ故に、こうなることは分かっていたのだろう。

村民の前では生贄になるのが当たり前であり、その役目を果たすことが喜びであるなどと宣っていた癖に、その裏で村人たちの死も自分がその役目を果たさないことも知っていたなどとんだ狸野郎だと思う。

 

「……」

 

牢の錠を外しながら、ふと悪戯心の様なものが湧いた。

この男はただ未来を受け入れている様な顔をしているが、どんな未来でも本当に受け入れるのだろうか、と。

 

ガシャリと音を立てて、錠が解かれる。

ギィと扉を開けて、狭い入り口を潜った。

 

武道はただその様子を眺めている。

逃げることも、悲鳴を上げることも無く、延ばされた手を拒否することも無い。返り血を浴び、サイレンサーのついた大きな拳銃を持つ大男が近付いてきているというのに何故恐れないのかと疑問に思う。死なない未来が視えているのだとは分かるが、それでも略奪される我が身を何とも思わないのか。殺された知り合いに悲しみを覚えないのか。

自身がギャングとして初めて人を殺した時、父と慕った男を殺した時、母を殺された時、大きく動揺はせずとも目の前の男よりは感情を動かした様な気がする。

 

この男が表情を変える様を見たい、と思うのも仕方がないことだとサウスは自分に言い訳をする。

 

延ばした手でするりと頬を撫でれば少しだけ切なそうに瞼を伏せる。首筋を擽りながら、その簡単に砕いてしまえそうな小さな顎を掬うとされるがままに唇が差し出された。

 

「……」

 

このサウスの気まぐれも、予見していたのか。

血の様に赤い紅が炎に照られてテラテラと輝く。その赤に目を惹かれ、汚してしまいたいという衝動に駆られる。衝動を抑える気もなく、口付ければビクリと男の肩が震えた。

ただの人形でも無いのは分かっているが、その心の機微は分からない。

 

男にキスをされて、普通は嫌ではないのか。

婚礼衣装を着せられ、化粧などされてはいるが所詮は生贄の衣装だ。死に装束でしかないソレを女装であるなどと考えているとも思いづらい。

サウスと比べれば小さな唇を食めば紅は簡単に乱され、男は従順に口を薄く開く。舌を侵入させ、中を蹂躙すればビクビクと身体を震わせる。

性的な快感を受け流せる訳ではない無いらしい。予見して頭で分かっていても身体は生娘の様な反応だった。

数度、弱い箇所をなぞれば武道はサウスの身体にに縋る様に手を這わせる。最初は遠慮がちだったが、回数を重ねる毎に腰が立たなくなったのかギュウと服を皺にする様に握られた。それを少しだけ気分よく思うのは男の余裕を崩してやりたかったからかもしれない。

 

キスだけで余裕を無くす武道をもっとどうにかしてやりたくて、サウスはその分厚いラッピングを剥がしにかかる。

何重にもまかれた布の包装とリボンを崩すのは、もらったことも無いが、クリスマスのプレゼントの袋を破く子どもの気持ちに近いだろうかと頭の片隅で考える。

開けてしまったらサウスではもう元には戻せないが、戻す必要もない。一枚だけ羽織らせて抱き抱えて連れ去ればいいだけだ。

 

「ん、ぁ……」

 

前を寛げると日に晒されない生白い肌がサウスの瞳に映る。女の肌だって見慣れたもので、更に男の肌になど移植に使う以外の価値は無いと考えていたが、目の前のソレにはそうは思えなかった。

キスだけで興奮したのか肌は上気している。しかし、少し不健康な肉付きは熟れているとは程遠く、少し惜しいなと残念な気持ちになった。もう少し肉を付けた方が好みだ、と。

 

「あの、あまり見ないでください。貧相なのは分かっているので……」

「神子とは使い潰されて真っ当に飯も食えない存在なのか?」

「いえ、食に不自由はしませんが、儀式で神域を汚さないために数日前から絶食しているので……」

「……」

「お腹の中も洗って空っぽなので、どうぞ……」

 

ジッと見つめたその視線の先の意味を分かっているらしい武道は少し恥ずかしそうに俯いた。驚きや動揺は無くともこういう表情はできるのだな、とサウスは武道を観察する。未来を視るだけの人形でも構わないが、何となく、人としての武道を見たいのだという気持ちがあった。

どこまでも見通され、掌の上なのは気に入らないが、据え膳を食わない理由も特にはない。

既に萌している下腹部を無視して、その更に奥へと指を這わせればドロリと人工的に濡れた感触がした。

 

「……儀式は神子を神へと還すものだと聞いているが、生贄を慰み者にするのか?」

「失礼な事を言わないでください。抱かれるのが分かっていたから準備だけしましたけど俺は処女です!」

「……そうか」

 

初めて見せる怒った様な表情は恥ずかしさの表れなのだろう。頬は羞恥で真っ赤に染まっており、案外可動域の広かった眉が面白いほど吊り上がっていた。

神子としての余裕のある表情を大きく崩したソレはまさしく生娘といったものだ。

すまし顔の奇妙な男が、自分に抱かれるというだけでここまで変わってしまうのだから面白い。特別、初心なのが好みと言うことはないが、好ましい相手のハジメテが自分であるならソレ以上の事は無いだろうと寺野は思う。

 

「うぅ……」

 

ツプリと濡れた穴に指を差し込めば武道は少し苦しそうに眉間に皺をよせ、寺野に縋るように服を握る。ベッドの上での慣れた行為であれば甘えられていると思えるが着物を敷いただけの畳の上で初めての行為だった。

殺しの興奮と神子を乱してやりたいという悪戯心から手を出したが、後日にすべきかと一考する。攫ってしまえば時間などいくらでもある。

 

そう考えた瞬間、武道は掴んでいた寺野の服をグッと引っ張り寺野を睨みつけた。

 

「俺がここまで覚悟決めて据え膳してんですからちゃんと抱いてください!」

「……おぉ」

 

半泣きで羞恥に顔を染め、怒鳴りつける様はまさしく生娘で、そんな相手に此処まで言わせてしまったのなら今さらやめては男が廃ると寺野は思い直す。

しかし、少し興奮が冷めて冷静になったため手早く済ませてしまおうという心遣いもあった。

 

「……」

 

そう広くもない牢の中で文机の上にこれ見よがしに置いてあるワセリンが目に入り、なるほどこれで準備をしたのだな、と納得する。自由の無い神子でも手荒れのケアくらいはさせてもらえるのだろう、と謁見の時の手の感触を思い出す。

足りなくはないが十分でもない準備に確かにこれは男を知らないのだろうと少しだけ気分が良くなる。

ワセリンに手を伸ばし蓋を開け、既に濡れてはいる穴に更に潤滑油を追加するとビクリと武道の身体が震えた。少しだけ乱暴な手つきになってしまったかと思いつつ、自分に縋る武道の上半身を抱きしめて抱え、開かせて股座に指を這わせる。

もっと丁寧に苛め抜いてやりたい気持ちを抑えつつ、寺野は効率よく穴の拡張をする。欲を吐き出すために行う売女とのセックスとはあまりに違うその様子に、寺野は自分でもおかしくなってしまう。

自分とこうなる事を視ただけの武道はこの扱いがどんなに特別なものなのか知る由も無いのだろうと思えば更に愉快だった。せっかくの初めてをこんな風にしてしまうのは勿体無い事だと思うが、自分から始めてしまった以上は相手に恥をかかせる訳にもいかないだろう。

おざなりにならない程度に抱いて、連れ帰ってからもっと気持ち良くしてやろうと心に決める。殺しの興奮で抱くのとは違うのだという事を知らしめてやらなければならない。

 

そんなことを考えながらも丁寧に穴を広げ、寺野の指が3本も入る頃には武道は既にぐでぐでの様子だった。苦しいだけではない興奮に息を荒げ、悲鳴ともうめき声とも取れない声でヒンヒンと鳴く様にコイツはそっちの才能もあるのだなぁとしみじみと寺野は思う。苦しめずに済むなら何よりだった。

 

指を抜くと震える身体に少しの嗜虐心を感じつつ、その可愛らしさへの興奮でいきり立つ自身をピトリと穴に当てた。キスでもするように、中へと入れてもらうお伺いをたてるように、武道へと知らしめる。

今から、コレがお前を犯すのだと。

 

「力を抜け。挿れるぞ」

「ぁい……」

 

蚊の鳴く様な小さな声だった。しかし、武道はしっかりと了承を伝える。

 

「んあぁあっ」

 

ずるりと侵入した体積に武道は甘い悲鳴を上げた。潤滑油と丁寧な拡張のおかげで痛みは無かったがその体格差ゆえに圧迫感が酷い。

拡張をメインにした前戯だったためにあまり可愛がられなかった前立腺を雁首がゴリッと引っ搔いて、でっぷりと太った竿が圧迫する。

未知の衝撃に武道は目を見開くが、寺野は武道が痛がっていない事だけを確認するとすぐに抽挿を始めた。本来なら馴染むまで胎の中でジッとした方が良いがあまり時間も無かった。

 

「あっ、あぁっ」

「ふ、ぅ……」

 

入り口近くまで抜き、前立腺をゴリゴリと刺激しながら最奥を刺激する。その更に奥があることを寺野は知っていたが初めての行為でソコを無理やり抜く気にはなれなかった。

寺野を締め付ける肉筒はまるで射精を強請るかのようにギュウギュウと収縮し、自らその快感に弱い肉を刺激する。武道本人は初めての経験に自分の身体がどう動いているのかも分かっていない様で、上半身だけは快感を逃がす様に寺野の胸に縋りついていた。

この柔い感触をずっと楽しんでいたいという欲を我慢し、寺野は自身を射精に導くためのピストン運動をする。もっと長く楽しんで、相手を焦らし、ぐずぐずに溶かしてやりたいが、今はそんなことをしている場合ではない。

そろそろ村の外に待機させた部下が入ってきてもおかしくない頃合いだった。セックス中に部屋に入られるくらいならそこまで気にしないが、この男の顔や体を他の者に見られるのは嫌だと思う。

 

グイッと奥へと鈴口を押し付け、中へと欲を吐き出してやっとスキンをしていない事を思い出した。冷静なつもりでもやらかしてしまったな、と思いつつぐったりとした武道を着せ方も分からない衣類で包み込んで抱き上げた。

 

「悪いな、ごちそうさん。良かったぜ」

「おそまつさまでした」

 

ヘロヘロの口調ではあるが減らず口を叩く武道の頭を軽く撫で、寺野は外へと歩き出した。